92.カーラの物語 Year Two 決死の身体検査
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
カーラの体調が完全に回復する頃、彼女は部屋から連れ出される。暴れようと身構えたが、首輪についた装置が彼女の力を奪い、手足が鉛の様に動かなくなる。これは封魔と機械仕掛けの呪術であった。そのまま彼女は人形のようにストレッチャーに乗せられ、別の部屋へと運び込まれた。
そこには研究所所長のアルバス博士が書類を捲りながら待っており、カーラの顔を見ると笑顔を覗かせた。
「やぁ、ようこそ。ジャレッドの娘よ。君には期待しているよ」
「何を? あたしの事は散々調べたでしょう?」激しく睨み付け、鼻を鳴らす。
「血液検査に身体測定……まぁ、戦闘データとして色々と見させてもらったよ。軍艦を蹴り上げる胆力に、黒勇隊隊長や剣術指南役と互角以上に戦う。だが君はクラス4のBランクで、使い手としてはそこまで高くない。が、人生経験……所謂人間力ってやつか? お前の強さはそこにあるのだろう」博士は読んでいた書類をファイルに閉じ、助手に手渡す。
「で、あたしを雁字搦めにしてどうする気? 生きたままバラバラに解体するとか?」彼女は冗談交じりではあるが、覚悟は出来ていた。
「それは勿体ない。役に立たなくなった廃人だったらともかく……今から、君の魔力循環のサンプルを摂らせて貰う。言うほど簡単ではないがね」と、アルバス博士は鉄製の杭の様なモノを取り出し、アルコール消毒を済ませる。
「それで何をする気よ?」
「こいつを君の丹田部分へと突き刺す。するとコイツが展開し、中から無数の探査針が飛び出す。針と言うより髪の毛の様に細い触手かな。そいつが丹田を中心に、身体全身を駆け巡る。足先から手先までな。そこまで達したら、半日ほど電気信号や魔力注入を行い、君の魔力循環を研究させて貰う」
「……その小さい奴から無数の針? それはあたしの身体全身に?」いまいち想像できないのか、首を傾げる。
「因みに今迄、このサンプル採取を行って生きていた者は一握りだ。その数人も廃人になった。クラス4は君で6人目。どうか最後まで死なないでくれ」と、口にした瞬間、鉄杭を彼女の臍へと突き刺した。
「うぐぁ!!」急な突き刺しに堪えられぬ激痛が奔り、カーラは身を捩る。アルバス博士は容赦なく鉄杭を根元まで突き刺し、一歩下がる。
「さて、では頑張ってくれ」博士のセリフと共にカーラの臍に突き刺さった鉄杭が開き、中から無数の探査針がゆっくりと飛び出す。それらは彼女の内臓を撫で回す様に前進へ伸びていく。その激痛はまるで鋭い百足がゆっくりと這いまわる様であった。
カーラは目を剥き、喚き散らし、身体が腰から千切れんばかりに捩って暴れ狂った。
「まだまだこれからだぞ。死んでくれるなよ」と、彼女の身体を冷静に観察しながらメモを取り始める。
数分経つと探査針が筋肉と骨の間を奔り、ついに手足の先まで到達する。彼女は全身の血管を浮き上がらせて汗だくになり、激しく痙攣していた。叫び疲れて声から張りがなくなり、乾いた泡がコポコポと喉の奥から溢れる。
するとアルバスは彼女の喉の奥に2本の管が合わさって1本に纏まったチューブを押し込んだ。それは彼女に酸素を送り、吐瀉物を吸引する機能の合わさった生命維持装置であった。
「さ、ここからが本番だ。君は大したものだよ。これだけで悶絶死するのが殆どだ」と、別のスイッチを入れる。すると、鉄杭がチカチカと光りはじめ、微弱な電気が流れる。これにより魔力循環の循環ルートや彼女自身の魔力の強さなどを知る事が出来た。このサンプル採取は3年前にクラス3の雷使いに1度だけ成功し、そのサンプルを元にエレメンタルブースターを発明したのであった。これが成功すればクラス4のエレメンタルブースターへ強化する事が可能であった。
カーラは相変わらず悲鳴を喚き散らし、涙と鼻水で溺れ、胃液すらも鼻から噴射する。口に突っ込まれたチューブが無理やり呼吸をさせ、彼女を死なせずにいた。が、全身の耐え難い激痛に拍車がかかり、関節の反対側へ筋肉が痙攣し、横隔膜が限界以上にせり上がり、更に毛細血管が破れて爪先から出血する。
「ふむ、いい感じだ。ここから12時間弱だ。頑張ってくれ」アルバス博士は淡々と口にし、退室する。残されたカーラは休憩も許されず、その場で悶絶のダンスを踊り続けた。
博士はその後、鉄杭から送られてくるデータを休むことなく観察し続ける。彼も一切休憩せず、目も擦ることなくカーラの魔力循環のデータを取り続けた。
「ふむ、属性や性別だけでない。今迄送ってきた人生によって循環ルートは変わるらしい。クラス4へ目覚める切っ掛けにも寄るのか……だが、やはり風と雷は元々同じ属性というのは頷けるな。魔力の取る個所が似通っている」アルバス博士は目を輝かせて頷く。
すると助手のひとりが恐る恐る近づく。
「そろそろ12時間を超えますが、まだ続けますか?」
「まだ不十分だ。それにやはり彼女は素晴らしい。こんなに続けても心臓が1回も止まっていない。これを機にデータを摂り尽す」と、予定よりも超えて18時間もデータ採取を続けた。
これが終わる頃、カーラの髪は所々白くなり、目は力無く虚空を見つめ、涎を垂れ流していた。が、アルバスが声を掛けた瞬間に目にだけ力が戻り、弱々しくも意志のしっかりした唸り声を上げた。
「素晴らしい!! これだけ採取したのに廃人にならないとは!! 諸君、彼女を丁重に扱え。これからまだまだデータを摂らせてくれるだろう!」探査針の収納された鉄杭を臍から抜き取った。カーラは何も声を発しなかったが、ただアルバス博士の笑顔を恨めしそうに睨み付け続けた。
それから数ヵ月間、カーラは様々な方法でクラス4の風使いとしてのデータを採取され続けた。時には魔力を吸引され、またある時は背骨から骨髄液を抜き取られ、毎日が激痛に見舞われた。
だが、カーラの目は死なず、まるで怨み憎しみを喰らって生きながらえる鬼の様な殺気を放っていた。研究所職員は彼女のデータ採取の度に肝を冷やす事となった。アルバス博士はそんな殺気を感じないのか、機嫌よく彼女のデータに目を通し、様々な兵器開発に役立てる為、ウィルガルムへとデータを送った。
これによりデストロイヤーゴーレムの心臓部や魔送炉、エレメンタルフュージョンカノン砲へ魔力を送る装置などの開発に貢献する事となった。そして更に新型のエレメンタルブースター作成への1歩を踏み出す事にも繋がった。
「……ころしてやる……ころしてやる……」カーラは呪文のように、そして己の萎んだ心を鼓舞する為に唱え続けた。
カーラが研究所に連れて来られて半年が経つ頃。ついに彼女からデータを摂り尽す。これにより彼女は最後の時を迎えようとしていた。アルバス博士はこの日を待ち望み、メスを磨いて待っていた。生きたまま彼女の身体を切り開き、内臓と筋肉、骨と全てバラバラにし、研究しつくした後にビーカーへ詰めるのだった。クラス4をここまで研究し尽くすのは初めてであり、彼は興奮していた。
すると研究所へとある訪問者がやってくる。その者は魔王の使いとして送られたソルツ秘書長であった。彼女は飛空艇から颯爽と降り、ハイヒールの音を鳴らしながら研究所の門を潜った。
「どうもごきげんよう。ウィルガルム様から感謝の書状と、魔王様からの指令書。それと、呪術研究のヴァイリー様からのアポイントメントを」彼女は眼鏡をクイッとあげながら淡々と口にする。
「これはどうもお忙しい中、ご苦労様です」
「そうなのよ、忙しいのにこんな下っ端のする仕事を……でも、他にも各場所へ向かわなければならなくて……秘書は大勢囲っても、有能且つ信用できる者はいなくて……結局、私直々やる羽目に……ねぇ、役に立つ実験体とかいるかしら?」
「実験体……?」
「そう、秘書をやるのに都合のいい。できれば空を飛べるクラス4がいいわね~」
「……ふむ……」アルバス博士は急に押し黙り、彼女から顔を背ける。
「あら? 都合のいい子でも隠しているのかしら?」獲物を見つけた様にソルツ秘書長は彼の顔を覗き込み、笑みを零した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




