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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
58/616

57.復活のアリシア

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 ラスティーが仲間たちに策を伝えた後、全員が行動を開始する。


 まず、動きやすくするために居心地の良い貸し切りの宿を出て、城下町から一番近い村の宿に入る。


 そこから、ラスティーはウィンガズの手引きでグレイスタンの軍に潜入し、情報収集とかく乱作業を始めた。説得力のない噂話を酒場や訓練場で『ここだけの話』と味付けしてばら撒き、城下町に『火のない所の煙』が立ち上る。


 エレンは本を片手に、ラスティーに注文された薬を調合し、それを自分の水魔法に混ぜて研究した。日の半分は研究に、もう半分はアリシアの看病に費やした。


 そしてヴレイズは、自分のクラス3.5の魔力循環をスムーズにできるよう、1日の殆どを瞑想して過ごした。ボルコニアでガイゼルから習った、意味のある瞑想だった。


 その中、バグジーはラスティーの指示で彼らの身辺の世話、主にお料理片手にお洗濯をしていた。


 そんな活動が3日過ぎる頃……。




「ふぅ……バグジーくん? バグジーくん??」夜通し、体内の魔力操作の鍛錬を行い、へとへとになったヴレイズが食堂に現れる。まだ朝日が薄く、朝飯の時間には早かったが、バグジーは普段からこの時間に起床して一日の食事の下準備を始めていた。


 だが、この日はバグジーの姿は無く、明かりも灯っていなかった。


「おかしいな? エレン、起きてる?」寝室を開けると、そこにはベッドに頭から突っ込んだエレンが不機嫌そうに顔を上げた。


「寝ている人に『起きてる?』って声を掛けるのはやめてください……今、何時ですか?」


「明け方なんだが、バグジーくんがいなくてな」


「明け方……寝落ちしてから数分も経ってないみたいですね……」


「わりぃ、寝ていてくれ。ちょっと食べてサッパリしたら仮眠しようかと思ったんだけどな……つまみ食いしたかったんだけどな」と、洗面所の扉を開く。この部屋ではアリシアの治療が行われており、ヴレイズは様子を診るために室内を覗く。



「……?!! おい、エレン! アリシアはどこだ!!」



「……え? アリシアさん? 彼女は……えぇ?! どこって?!」



 寝ぼけた顔のエレンは水をかけられた様に目を覚まし、ヴレイズを突き飛ばして洗面所へ押し入る。室内にあるヒールウォーターバスはもぬけの殻で、濡れたバスタオルがバスタブにかかっていた。


「……まだ早すぎます! 彼女の完治には1カ月以上かかるのに!」


「アリシアの装備が無いぞ! まさか、ウソだよな?」ヴレイズも顔色を青くさせ、表情を引き攣らせる。


 すると、宿の扉が勢いよく開く音が鳴り、軽快な足音が響く。ヴレイズとエレンは慌ててその足音の元へ向かう。


 そこには、イキイキとした表情をしたアリシアが大きなカバンを背負っていた。その背後にはバグジーが両手いっぱいに荷物を持って立っていた。その中身は解体済みの獲物の肉や骨、内臓に血の瓶が入っていた。



「たっだいま~!! いや~久々に楽しかった~!!」



「アリシア……」丸くなった目を強くこするヴレイズ。


「アリシアさん! まだダメですよ! 狩りは完治してからです!!」不安と心配を爆発させながら詰め寄るエレン。


「でも、もう身体は問題ないよ? それに、あそこでじっとしてたら身体が鈍っちゃうし……あたしとしてはそっちの方が問題なんだよね。さ、獲物が沢山獲れたから、下拵えをしてご飯にしよ! バグジーくん、手伝って!」と、2人の心配を尻目に厨房へ向かう。


「いや……身体じゃなくて……」エレンは下唇を噛み、不安で満たされた瞳でアリシアを見る。


「……俺も、飯の支度を手伝ってくるよ」




 太陽が堂々と顔を出す頃、朝飯のベルが村中に鳴る。それと同時に宿の食堂のテーブルには、調理された獲物達がこれでもかと並び、ふんわりとした湯気を立てていた。水差しにオレンジジュースが満たされ、バグジーが丁寧にグラスに注ぐ。



「いっただっきま~す!!」



 アリシア達はテーブルを囲んで手を合わせ、大声を揃えた。この食卓でラスティーは不在だが、ここ最近は潜入に忙しく宿には戻っていない。


 アリシアは早速、骨付き肉に齧り付き、もう片手でパンを掴んで交互に口へ運んだ。


「……いきなり食べて大丈夫なのか?」ヴレイズが心配そうな声を出し、肉団子スープを啜る。


「私のヒールウォーターバスは肉体と心の治療を施しながら、筋肉や内臓を動かし続け、いつでも一般生活に戻れるように心がけています。ですが、アレは……」と、目を泳がせる。アリシアは馬車馬の様に食事を勧め、喉を詰まらせそうになってはジュースを飲み、落ち着くと今度はチーズに齧りついていた。


「アリシアさん、食べ過ぎは良くありませんよ?」


「いくらエレンの丁寧な治療でも、栄養は自分の口で摂らなきゃ! やっぱ体力を万全にするには食べる! でしょ?」と、遠くの皿を引き寄せてあっという間に平らげる。


「ですけど……大丈夫なんですか?」


「なにが?」口をナプキンで拭いながら小首を傾げる。


「いえ、貴女が問題ないならそれで……」エレンは何か引っかかる様な顔で首を傾げ、グラスを傾ける。


「久々のアリシアの手料理だ。やっぱ美味いな!」と、ヴレイズが卵焼きを口にすると、アリシアがにんまりと笑う。


「それ、バグジーくんが作ったんだよ?」


「マジか……あの手でどうやって作ったんだ?」と、ウェイターの様に行儀よく直立するバグジーの方を見ながら、また一口食べる。


「さ、早く食べて用意しなきゃ!!」




「……身体は、問題ありませんね……からだ、は」食後、エレンはアリシアを洗面所へ呼び、診察を行った。彼女の身体を、魔力を帯びた手で撫で、異常がないのを確認し、頭に両手で軽く触れる。


「エレン、ありがとう。ずっと看病してくれて……」


「当然です。私は魔法医ですし、大切な仲間ですし……」目を閉じ、アリシアの頭の中を覗き込む。


 その瞬間、エレンの手を通して頭へ強烈な負のイメージが叩き付けられた。


痛みと悲鳴。まるで体内を毒の塗られた茨が這いずり回る様な感覚に襲われ、脂汗を噴き出しながら頭から手を退ける。エレンの瞳から血涙が滲む。


「アリシアさん……まだ早いですよ……」


「……別に無理はしてないよ。ただ、ずっと甘えていても良くならないと思ってさ……」


「でも……」エレンは己の無力を実感し、拳を握った。


「大丈夫、あたしは結構、頑丈だからさ」エレンの頬を伝う赤い涙を拭い、微笑んで見せる。


 エレンは知っていた。彼女の笑顔は無理やり作られたハリボテである事を。




 ヴレイズはその頃、村の外れの丘の上で瞑想をしていた。体内の魔力を適度な速度で循環させ、少しずつ回転を速くさせる。以前までは、クラス3.5の一時的な無限の魔力を引き出すために30分ほどかかっていたが、現在は修行の成果か、5分で引き出せるようになっていた。


 その暴れ狂う様な魔力を抑え、自分の物とするために瞑想を続けて、落ち着かない身体を鎮める。


 そんな彼の背後に、気配のない影が迫る。抜き足差し足忍び足でその影がヴレイズに少しずつ近づき、両手をつき出す。



「わぁ!!」



 無邪気な声でアリシアがヴレイズの背を思い切り押した。



「フワァイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」



 魔力の体内循環が一気に狂い、口から轟炎が吹き上がり、青空が真っ赤に染まる。


「わぉ……」


 炎をひとしきり吐き終えたヴレイズは口から煙を燻らせながら、背中を押した犯人に向かって顔を向ける。


「いいか、俺が瞑想中に、いきなり背中を押すんじゃあな……」相手がアリシアだと分かり、怒り顔が溶ける。


「ヴレイズ♪ 改めまして、生還おめでとう!」精一杯の笑顔を向け、アリシアが彼の胸に飛び込む。


「それはこっちのセリフだよ! アリシア……無事でよかった」彼女の祝福に応え、腕を彼女の腰に添える。


「……本当によかった……信じていてよかったよ!」


「俺もだ……」


 



 夕刻、アリシアはひとり得物の手入れをしていた。自慢の弓、ナイフ、クローを磨き上げ、早朝に獲ってきた骨を削ってナイフを作り、色々と調合して薬や様々な道具をこしらえる。


 その背後にバグジーが立つ。


「……バグジーくんでしょ? あたしの得物たちを毎日手入れしてくれたの」


 周りに誰もいないのを確認し、バグジーは頷いた。


「はい。例え使っていなくても、手入れをしなければ相棒というものは、いざと言う時に裏切ってくるものですからね」と、彼女の座る隣に腰を下ろし、骨の投げナイフの切れ味を確認する。


「ありがとう。そういえば、ラスティーは?」


「今日の夜、戻るそうです」


「そっか……ねぇ、この戦いが終わったらさ……あなたとはお別れなの?」何かを悟っているのか、声のトーンを落としながら問う。


「……結果がどちらに転ぼうと……はい。そうですね」


「良い方に転んだらさ、また水浴びしようね!」


「……はい! ところで、ラスティーさんから問い詰められたのですが、なぜ私とだけは水浴びをするのですか?」


「貴方には、邪念がないから……イヤラシイ邪念が」


「は、はぁ……ジャネン?」




 夕暮れの食事時、グレイスタン軍の軍服を着たラスティーが戻ってくる。疲れはみせていないが、目の下を黒くさせていた。


「戻ったぜ。下準備は完了! あとはウィンガズ殿に伝令を出せば、戦いの歯車が回り始めるぜ~」楽しそうに手を組ながら椅子に座る。


 そこへアリシアがヌッと顔を出す。


「おかえり~! あたしの情報は役に立ちましたか?」


「あ、アリシア! もう動けるのかよ!!」


「エレンからは反対されているけどね~」


「そうか……おかげで勝ち目が一筋見えたぜ。感謝する」


「もぅ、水臭いよ。で、あたしの役割は?」彼女が己を指さすと、エレンが現れる。


「ダメです! ラスティーさんにも言いましたが、アリシアさんの出番は終わりです! ここでお留守番です!」


 彼女は我が子を叱るかのような声を出し、指を突き出した。


「それは出来ないよ! あたしがジッとできない正確なのは知ってるでしょ? ラスティー、あたしの役割は?!」


 アリシアがラスティーの鼻先に詰め寄ると、それを阻む様にエレンも詰め寄った。彼は困り顔で目を逸らしながらため息を吐いた。


「……じ、じつは結構重要な事をやってもらいたいんだが……」


「ラスティーさん!!」



「この戦いに勝てなきゃお仕舞ってことはわかってるよ! 勝つためなら、出来る事をやらなきゃ!!」



 アリシアが拳を握って力説すると、エレンは諦めた様に首を垂れた。


「……立派すぎますよ……アリシアさん」


「ありがとう、アリシア……で、君の役割だが……」


 ラスティーが今回の策、そしてアリシアの配置を説明する。それを聞いたエレンは首を上げ、アリシアの身体に両腕を回し、ぎゅっと抱き付いた。


「やっぱりだめぇぇぇ!!!」


 エレンの絶叫が宿に木霊する。


その外側で、何者かが聞き耳を立てながらニヤニヤと笑っていた。




 そして1週間後、あっさりと戦いの日がやって来る。


 ラスティーの指示と共に風使いの伝令がウィンガズの元へ走って行く。


「ふぅ……ついにこの日がきたな」普段着に着替えたラスティーは、肺一杯の空気を吐き出し、目を閉じる。


 彼の背後には、各々装備を整え、準備を終わらせた仲間たちが立っていた。


「緊張してきた……」凛々しい表情とは裏腹に、震えた声を出すヴレイズ。


「大丈夫、あたしがバックアップするから」アリシアが口にすると、エレンが彼女の耳を掴んだ。


「決して無茶だけはしないで下さい!!」


「約束はできないな~」ニヤリと笑いながら両腕を組んで伸びをする。


 そんな彼らの背後で、バグジーはいつもの無表情で突っ立っていた。だが、アリシア達が帯びる決意のオーラよりも大きな何かを帯びていた。


「さぁ……いくぞ!!」ラスティーが掛け声と共に拳を掲げる。


 それに応えようと皆が拳を掲げると、アリシアだけ身体が不自然に固まった。


ヴレイズが異変に気付き、ラスティーの向こう側の村の入り口に目をやる。



「おはよぉ~うございま~す♪」



 そこにはローズ・シェーバーが腕を組んで立っていた。全身に雷光を帯び、瞳を光らせる。



「みんな、ここはあたしに任せて早く行って!!!」



 アリシアは先ほどの穏やかな表情を掻き消し、殺気を滲ませた顔を除かせる。


「アリシアさん、ダメです!」悟ったエレンが彼女を阻もうと前に出るが、アリシアは無理やり彼女の前に出た。



「邪魔をしないで!! 早く行って!!!!」



 獣が如き一喝が村に響き渡る。


 ラスティーは察しながら頷き、エレンを抱き寄せた。


「これが彼女にとって、一番の治療になる。エレンならわかるだろ?」


「でも……」


「いいから行くぞ! アリシア、信じているからな!!」ヴレイズもアリシアの行動を阻もうとせず、目的地へ向かって駆けだす。


「うん! こいつ倒して、すぐに追うから!!」


 彼女の頼もしいセリフに応える様に皆、走り出す。バグジーも沈黙はしながらも、彼女の身を案じながらもヴレイズ達を追った。


 それをローズは大人しく見届けながら、くすくすと笑う。


「最初からアタシの目的はあんただけだよ、アリシアちゃん。早速、質問なんだけどさぁ~」と、一瞬で間合いを詰めてアリシアの眼前まで近づく。



「こいつ、って誰のこと?」



「お前だよ!!!」

如何でしたか?


次回、アリシアVSローズのバトル開始! 乞うご期待!

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