163.墜ちるボディヴァ家
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
量産型ウィリアム2体は左右に分かれてスカーレットを挟み撃ちにし、同時攻撃を行った。必殺の拳が顔面と腹部を狙い、彼女は背後へ跳んで距離を取った。この戦いが始まってから彼女は防戦一方になり、巨大な拳と大木の様な脚から逃げ続けていた。
「くそ、隙が無い!」スカーレットの雷速の動きにウィリアム達は先回りする様に動いた。彼女の速さは2体よりも上だったが、行動パターンを徐々に先読みされ、追い込まれていた。
「なんなの、この2人? 呼吸も気配も魔力もまるで感じないのに……」動揺を隠せぬままに引き続け、次第に瓦礫と港沿いに追い込まれ、足場が悪くなる。堪らず上空へ跳び、雷魔法で空中制御をするが、器用に飛ぶ事までは出来なかった。故に、ウィリアムの先読みに捕らわれ、ついに拳を脇腹に喰らった。
「ぐぼっ!!」吹き飛ばされた先でもう一体の肘打ちを背に喰らい、地面へ叩き付けられる。「ぐぁ!!」雷魔法で身体強化をしていても衝撃は芯まで届き、内臓が破裂した。脚の動きと頭も激痛で鈍くなる。
が、こう言った経験はヤオガミ列島での戦いで嫌というほど経験した為、思考ではなく反射神経のみで動き、逆立ちから跳躍して距離を取り、その間に足腰と頭の鈍さを雷魔法で回復させる。
「くっ、骨まで響いたな……でも、いつもの私ではない!!」と、すぐさま安定した足場に着地し、ウィリアムの一体へ向かって殴りかかる。
しかし、もう一体がそれを邪魔するように横から膝蹴りを入れる。先ほど殴られた個所に命中し、堪らず吐血する。
「あがぁっ!!」白目を剥き、地面に倒れ伏す。そのままもう一体に顔面をボールの様に蹴られ、宙に浮き上がる。更に入れ替わる様にもう一体が彼女の足首を掴んで地面に叩き付ける。石畳に血のスタンプが押され、血の海が激しく飛び散る。その中に稲妻がバチバチと広がり、手足が痙攣する。更に追い打ちを掛ける様に2人は彼女の身体を踏み拉き、蹴りを入れる。
スカーレットの呼吸も心音も止まり、ピクリとも動かなくなるのを確認すると、ウィリアムらは倒れた彼女に背を向け、次のターゲットの方へ歩き始める。
「待て、この……結局なんなんだ? お前ら……」
死んだはずのスカーレットは心臓を雷魔法で無理やり動かし、肉体を活性化させる。折れた骨と裂傷した筋肉は磁力で固定し、内臓の動きも電流で無理やり機能させる。その間に懐に入れたヒールウォーターの瓶を飲み下す。この回復はリヴァイアの魔力循環修業の賜物であった。
「お前らは眼中に無い!! 向こうのあいつを倒さなきゃならないんだ!!」スカーレットは構えながら魔力循環の高速化を更に速める。が、彼女の準備が出来るのを待たずにウィリアムらは彼女に再び襲い掛かった。
「……少しは休ませてよ……」と、痛みを伴うため息を吐き、地面を力強く蹴った。
「で、お主の目的は世界王の野望を阻むと言ったが、我々と組む気はあるか?」エイブラハムはまるで敵意を見せぬままリヴァイアに問いかける。2人は戦う雰囲気ではなく、久々の再開を懐かしむように会話を続けていた。
「ご冗談でしょう? 私の第一目標は魔王の討伐。その道の途上で世界王が邪魔をしているだけです」と、腕を組みながら目下の港を睨む。彼女の水魔法はチョスコ港を襲い、魔王軍を津波で襲っていた。それに対し、軍の水使いが総動員で港と迎撃兵器を守っていた。更に世界王の軍艦も魔障壁発生装置を対水魔法に固定して渦潮から守っていた。彼女ひとりの軽い水魔法で世界王と魔王の両軍を圧倒し、本気を出せば両軍一片に潰すのは簡単であった。
「で、君はどうする? どちらから潰す気じゃ?」エイブラハムは目下の自分の部下が気張っているのを眺め、微笑ましそうに笑う。
「もちろん両軍潰します。返答次第では貴方も」
「そうか、では久々に味わおうかの。賢者の実力を」と、エイブラハムが目の奥で閃光を光らせる。
次の瞬間、数十本の稲妻がリヴァイアひとりに向かって降り注ぐ。
リヴァイアは一瞬で水のベールで身を包み、稲妻を全て海へ逃がし、軍艦へ雷が伝播して兵器の半数が破壊され、動力源もショートする。
「ほっ、やるのぉ~」と、楽し気に次々と稲妻を槍の様に投げつけ、更に強大な雷球を降らせる。
リヴァイアはそれら全てを水魔法で流す。弱点であり相性最悪の属性である雷対策万全である為、リヴァイアは彼の攻撃の殆どに対応しながらも両軍に対する攻撃の手を緩める事は無かった。
「成る程、矢継ぎ早に難問を出す教師みたいね。魔法学校時代を思い出すわ」と、楽し気に微笑む。エイブラハムの雷魔法には全て呪術が書き込まれており、素直に水魔法で流すと逆流するトラップが仕込まれていた。彼女はそれを全て解呪して海へ流していた。
「今の所は合格じゃ。じゃが、これはどうかの?」と、巨大な雷槌を作り出し、彼女の頭上へ振り下ろす。
リヴァイアは流石にそれを受けようとはせず、身を翻して避ける。すると、雷槌が稲光と共に巨大化し、一瞬でリヴァイアを包み込み、水魔法から分断する。
「な、これは?!」
「これの問題が解けなきゃ、雷棺となるぞ?」エイブラハムが手の平を握り込んだ瞬間、リヴァイアを閉じ込めた雷棺が収束し、彼女の全身を雷が駆け巡る。が、電流が彼女の腕へと収束していき、手の中で小さな雷球になる。それを忌々しそうに捨て、溜息を吐く。
「回復阻害に対水障壁、更に多臓器不全を起こさせる呪術毒まで仕込んで……ま、楽しかったわ」と、無傷で笑って見せる。
「流石、大海の監視者の元で修業しているだけあって優秀じゃの。こりゃあ、ただの属性魔法と呪術の打ち合いでは勝負はつかなさそうじゃのぉ~」エイブラハムは拍手しながら大声で笑い、腕捲りをしてシワシワの腕を露出させる。その腕は枯れ木の様に細かったが、雷魔法が巡ると共に血管が力強く浮き上がり、同時に彼の目がパッチリと開く。
「……属性と呪術の打ち合いに、殴り合いまでやるつもり? 元気なおじいちゃんね」呆れた様にため息を吐いた瞬間、エイブラハムの鋭い雷拳が数十発飛んで来る。リヴァイアは左腕に水障壁を纏って雷魔法を受け流し、流れてくる呪術を全て解呪し、拳も全て受け流した。
「まだまだ準備運動じゃぞ? どこまで張り切れる? 小娘ぇ!!」彼は髭の向こうから若々しい声を上げ、オーラを数十倍に膨れ上げさせながらリヴァイアに襲い掛かった。
「流石、賢者一年目のガイゼルをボコボコにしただけあるわね……」
「ヴァ……が……はぁ……」スカーレットは外れた肩を嵌め直し、砕けた骨を雷魔法の電磁力で固定した。出血多量、臓器不全、失明すらも全て雷魔法で補助し、聴力も回復させる。ヒールウォーターは尽きていた為、身体を引き摺りながら一歩一歩パトリックの元へ近づいていた。
ウィリアムの一体は人間ではないと悟って容赦なく身体を引き千切り、体内に高圧電流を流し込んで内部から爆裂させた。もう一体は人口脊髄を引き抜かれ、戦闘不能となり、頭蓋を踏み潰されていた。
「ば、ぱとりック……や、やっと、お前の目の前に……」外れた顎を嵌め直し、力と魔力を振り絞って彼の寝そべっている場所まで一足飛びで跳躍する。着地と同時に血が飛び散り、パトリックの高級スーツを転々と汚す。
「……おや、もうあいつらを片付けて来たのか。あ~あ~、汚いなぁ!」ズボンの裾に付いた血を睨み付け、ズタボロのスカーレットへ目を向ける。
「父の、兄の仇……国を返せ!!」彼女は今まで言いたかったセリフを、精一杯振り絞って吐き出す。
「国を、か。チョスコをか? お前、自分がいた頃のチョスコと現在のチョスコ。どんな違いがあるか知っているのか?」パトリックは長椅子に寝そべりながら口にした。
「なに?」
「お前らボディヴァ家がいた頃の税がどれだけ国民を苦しめていたか知っているか? お前ら貴族がどれだけ疎まれていたか、お前らが去った後の国民満足度は? 掲げられた国旗の柄は? そしてボディヴァ家を覚えているのが何人いるのか……お前は知っているのか? 私は知っているぞ?」と、細めた目で震えるスカーレットを眺める。
「な、なにを言っている?」今にも泣き出しそうな震えた声を出すスカーレット。
「もう誰もお前らの事を覚えている奴はいない。お前が逃げた後、処刑を望む声があったが、今はその声すらない。いいか? お前らの反乱ごっこを覚えている者もいない! そして、今は魔王様の統治に感謝している! 誰も、お前の帰りを望んでいる国民はいない!!」
「う、うそだ……うそだ!!!」力なく拳を握り、パトリックに殴りかかる。
が、彼は華麗な足さばきでそれを避け、彼女の髪を掴んで引き寄せる。
「覚えているだろう? お前らの最後の戦いの時、支持している国民の声を……応援の声はどれだけあった?」パトリックは彼女の耳元で囁いた。
その時の事を思い出したスカーレットの身体から徐々に魔力が抜けていき、膝から崩れ落ちる。ボディヴァ家が戦っていた時、援助する者は逃げ、応援よりも罵倒の声が大きかった。父と兄はそれらに耳を貸さず、彼女も戦いに集中する為に耳を塞ぎ続けていた。
が、全てから耳を背ける事は出来ず、今、それらの言葉を思い出していた。
「あ……あ……あ……」溢れんばかりに血涙を流し、ゴボゴボと吐血する。首が項垂れ、握った拳が力なく開く。
「哀れな反逆者だ。処刑する価値もない」と、パトリックは抜け殻となったスカーレットから手を離し、目下の港町へ蹴り転がした。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




