148.ドミノあらわる!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
この戦いが始まる前、ブリザルドは世界の影の手引きで地下へと潜っていた。実際、彼は世界王クリスとも繋がっていたが、彼自身は誰も信用してはおらず己の野望に忠実に行動していた。
彼はグレイスタンで身柄を拘束されたが、案の定クリスの手引きで逃走し、そのままバルバロンヘ渡って身を隠していた。その間、世界の影の情報網を利用して機会を待ち、今まさに破壊の杖捜索という最高のチャンスが巡った。
世界の影はナイアらが言う様にかつての秘密結社の力は欠片もなく、グレイスタンで殆どトドメを刺され、世界中に散った者らもワルベルトの手下や黒勇隊に狩られ、見る影もなくなっていた。故にブリザルドにいい様に扱われ、もはや彼の駒に成り下がっていた。
ただ、世界の影の科学力の結晶とも呼べるコピー人間は1体おり、その者がブリザルドの片腕となっていた。
デストロイヤーゴーレムの起動と共に彼らは動き出し、世界中の戦況を観察しながら一番動きやすいバルバロン内陸の都市に潜伏していた。
「西では世界王、デストロイヤーゴーレムはラスティーが……で、魔王はゴッドブレスマウンテンに集中、か……」風のエレメンタルクリスタルで作られた珠を片手にブリザルドは世界地図を撫で回していた。その彼の隣にはコピー人間最後の1人であるライルが立っていた。
「さて、どいつの横っ面を殴ろうか……」
この数時間後の真夜中、この都市の近場の森林にて世界の影の残党のリーダーと待ち合わせていた。
「ブリザルド、分かっているな? 我々は最後の攻勢に出向く。クリスのいるマーナミーナへ向かい、そして……」世界の影は最後のチャンスとしてマーナミーナにあるホーリーレギオン基地にいる世界王を確保、人質にし、ククリスを占領しようと企んでいた。もうこれしか彼らにかつての力を取り戻す術は無く、たった13人とブリザルドとで作戦を決行しようと企んでいた。
そのセリフを聞き、彼はクスクスと笑い、高笑いを始める。
「頭も心臓も、手足も捥がれた組織の考えられる策は所詮こんなモノか……残ったのは僅かの情報網のみ。それだけでも使わせて貰ったが、もう用はない」と、指を鳴らした瞬間、この数年世話になっていた世界の影ら12人の首を真空波で撥ねる。辺りには生温かな血の雨が降り注ぎ、それを残されたライルは黙ってみていた。
「さて、時間がない。行くぞ。目指すは……デストロイヤーゴーレムだ。ラスティーにウィルガルム……かつての屈辱を晴らしてやろう!」と、ブリザルドは首を無くした世界の影の懐から受け取る筈だった物を奪い取る。それは小さいながらも立派な輝きを放つ魔石であった。
彼はそれを拳の中で更に光り輝かせ、少しずつ魔石の力を腕へ、そして体へと吸収し始める。次第に拳大の魔石は小さくなり、仕舞には手の中から消える。同時にブリザルドの身体が発光を始め、彼を中心に凄まじい突風と雷鳴が轟く。
「そうだ……そうだ!! 風と雷は元々同じ属性だった……もうひとり分の魔石を取り込んだ私なら、操れるぞ!! 雷の力も!!」と、その場からふわりと浮き上がらり、先程よりも更に大声で高笑いを始めた。同時に彼を中心に凄まじい大爆発が起こり、森の木々が全てなぎ倒される。葉っぱや動植物が舞い散り、一気に静寂が訪れる。
「行くぞ!! この私が神になってやる!!」彼はライルを風の玉に包み込み、その場を浮遊し、デストロイヤーゴーレムの鎮座する大海へと向かった。
ところ戻って研究都市、ヴァイリーの部屋。彼はやっと書類と集められたデータを飲み干した所であったが、今度は自分専用のラボへと向かっていた。研究員らの同行を断り、精密扉を締め切り、エレメンタルクリスタルを卓上へ乱雑に転がす。
「さて、適当に遊びながら……」と、俯いていたヴァイリーが正面を向くと、何者かが現れる。その者は怪しげな笑みを覗かせながら彼の目を見た。
「久しぶりね、ヴァイリー。ご機嫌は如何?」
その者はナイアと似た様なオーダーメイドのスーツを身に纏い、胸の谷間を露わにしていた。豊満な胸の下で腕を組み、勝ち誇ったように背を仰け反らせる。
「ドミノ……お前が来たという事はやはりか……」ポケットからプレパラートを3枚取り出し、乾いた布巾で拭い、顕微鏡にセットする。
「そう、ここにナイアが来る。起動実験の邪魔をしにくるわ」
「くくく……邪魔をする最高のタイミングに合わせてお前が来るとは、ナイアも迷惑な話だな」と、顕微鏡を覗きながら楽し気に笑う。
「会うのは20年以上ぶりかしらね……最後の時、あの子は死んだも同然だったけど……あのエリックとホワイティ先生に助けられたとか? お陰でビジネス相手が下火になって商売あがったりになったけど……この私が今度は魔王と繋がっていると知ったらどんな顔をするかしらね?」ドミノと呼ばれた女は声を上げて笑いながら近場の椅子に腰掛ける。
「お前とあいつの間柄は……一体何なんだ? 魔王様からも詳しくは聞かなかったが……宿敵なのか?」
「そうね……私があの子を作り、破壊した……かしらね? 生き方を曲げたからぶっ壊してやったけど、しぶとく生き残って家族まで作って幸せになって……あぁ腹立たしい」と、じわじわと不機嫌顔になり、鼻息を鳴らす。
「そうやってナイアの第二の故郷(ピピス村)の場所を魔王に流したのか?」相変わらず顕微鏡を覗き込みながら問う。
「えぇ。色々とチクってやったわ。世界の影の情報網を利用しているのはあの子だけじゃないのよ。それにアリシアがあの子の娘だという事も、ワルベルトの企みも、ラスティーって子の策も……そうそう、ナイアがシャルル・ポンドと繋がっている事もぜぇんぶね」爪のマニキュアの色を確認し、爪やすりで形を整えながら口にする。
「そこまでして、お前の目的は全て……」
「そう、すべてナイアの……全てを台無しにしてやる為よ。あの子は生意気にも私の人生を台無しにしてくれたんだから……あの時死んでなかったのは丁度いいわ。全部御膳をひっくり返して、孤独の淵に立たせて、吠え面を掻き、泣き崩れたら……」
「泣き崩れたら?」ヴァイリーは彼女の表情をこっそり覗きながら興味ありげに問う。
「どうしようかしらね……その時の私の気持ち次第。生かすも殺すも愛でるも蹴落とすも……ね」ドミノの目の奥には真っ黒な炎が燃え上がり、只ならぬ気配が立上った。
「女の怨みとは恐ろしいな……だが、そのエネルギーこそ私の研究に必要なのかもな……感情エネルギー……それにこそ、人間の進化への秘訣が隠されているのかも」ヴァイリーは楽し気にほくそ笑み、顕微鏡へ目を戻す。
「で、貴方の研究の成果はどんなものかしら?」
「期待していてくれ。その1体だけで邪魔者を抑える事は出来るだろう。ナイアは好きにしてくれて構わん」
「それって、量産型のデカブツ(ウィリアム)の改良型?」
「ベースはウィリアムではない。世界の影から頂戴した、ある男のデータを使った」と、ヴァイリーはまた楽しそうに微笑んだ。
その研究都市へ向かう輸送機内にて、ナイアは背筋を震わせていた。
「どうした? 風邪でもひいたか?」ボウガンの調整をしながらディメンズが問う。
「いや……嫌ぁな予感がして」弱味を見せない様に無理やり笑って見せるナイア。
「お前がそんな顔をするって事は……まさか、あの女の事か?」ハーヴェイが心配そうに問う。彼ら2人はドミノが彼女にやった事を知っており、何も言えない様に口を結ぶ。
「ドミノ……あれから1度も会ってはいないけど、私はずっとあの女の視線を感じているし、私の人生を全部滅茶苦茶にするつもりだって事もわかっている……けど、そうはさせない。私の復讐は邪魔をさせない! 頼んだよ、2人とも」と、ナイアは覚悟を新たにしたような顔で2人の目を見る。
「あの女、苦手なんだよな。お前を更に狡猾に掴みどころのない様にした感じでさ」ディメンズは表情を青くさせ、珍しく唇を震わせながら煙草を咥える。
「あんなのは冥界にも中々来ないな……ヘリウス(冥界の監視者)すらも手玉に取りそうな女だ」ハーヴェイもドミノは苦手なのか、重たくため息を吐いた。
「ここ20年間、私は気付かないふりをしていたし、あいつは地下に潜っていた。でも、出てくるならこのタイミングを置いて他にない。私の勘が言ってる! あいつは今回、私の前に姿を現す!!」ナイアは頭の中で全てが繋がったのか立ち上がり、力説した。
「マジか……そういう勘は先に言ってくれよ……」うんざりした様にディメンズは煙を吐く。
「いえ、ドミノは私がやる……私の第二の人生を台無しにさせないために……絶対に」ナイアは拳を握り、決意を新たに、奥歯を噛みしめた。が、同時に胃の奥から吐き気が昇り、必死になって嘔吐を我慢する。それ程に彼女の内臓にかかるストレスはハンパが無く、ドミノにされた事を考えるだけで腸が煮えくり返った。
「あの女だけは……絶対に……許さない!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




