100.真打ち登場!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ!
地獄の様な熱線を目の前にしてスカーレットが目を瞑った瞬間、彼女が感じたのは灼熱ではなく、心地よい暖かさであった。不思議に思い、恐る恐る目を開くと、目の前には逞しい背中が極太熱線を炎の魔障壁で弾いていた。
「悪ぃ! 遅くなった!!」
どこからともなく飛来したヴレイズが片手で軽々と熱線を弾き、同時にスカーレットの火傷を炎の回復魔法で癒していた。
「な、なんでヴレイズ殿がここに?!」
「いつものラスティーの秘密主義な作戦さ。慣れてくれ」と、口にしながら彼女の腕に喰い込み纏わりつくガントレットの成れの果てを瞬時に溶かして取り除き、腕の火傷を治し始める。
オロチは熱線を吐き終わると、また首を後退させて口元を光らせた。
「ったく、キリがないな!」と、赤熱右腕を唸らせ、龍首目掛けて飛ばす。
彼の放った炎と熱線が衝突すると、熱線は縦から割られた大木の様になり、赤熱右腕はオロチの口内へ入り込む。次の瞬間、龍頭は粉々に爆散し、力なく首が項垂れる。
「あぁなれば、再生不可能かな?」と、ヴレイズはスカーレットの治療を本格的に始める。
「ヴレイズ殿……確実に腕を上げていますね……」
「そう言う君も、確実に腕を上げているな。傷も増えたな……今度、エレンに診てもらって本格的な治療を受けた方がいい。俺のは、そこまで一人前の回復魔法じゃないからな」と、言いながらも彼女の爛れた両腕の治療を完璧に終え、今度は骨折の治療を始める。
「私はもういいです! それより、アレを!」と、スカーレットが指を差す。
オロチの砕け散った頭部は既に再生を終え、口から煙をもうもうと吐いていた。
「ったく、以前戦った黒龍並だな……君はここで待っていてくれ。俺は、行ってくる!」と、炎の回復魔法だけ残し、彼は勢いよく飛び立った。
オロチは打って変わって村へは目もくれず、空飛ぶ彼へ視線を送り、熱線の準備を始めた。
「私も、もっと強くならなくては……申し訳ありません、父上、兄上……」と、ガントレットの残骸に跪き、目を瞑った。
「村を焼き尽くすより、アレを狙った方が更なるデータが望めるな。しかし、あの魔障壁を破れないとは……もう少し出力を上げるか」ゼオはレバーを動かして熱線の熱量を上げ、ヴレイズに向かって龍首を3本向かわせる。
すると、今度は別の飛翔体が現れ、龍頭のレーダーを混乱させる。
「……別のクラス4か。光属性……あれにも3本向かわせ、いや、そうなると地上のあいつへの対処が疎かになるな」と、コンソールを弄る。
更に上空の飛空艇の動きに異変を感じ取り、苛立ったようなため息を吐く。
「ライトニングハンマーをチャージしているな……それにあの動き、恐らく敵に乗っ取られたか……ベンジャミンだな……ふん、来るなら来い。次の一手への準備はもう進めてある」と、コンソールに入力を終え、コクピットの座席から腰を上げ、操縦桿とコンピューターを壁の中へ収納する。
彼は身に付けていた防具と制服、マスクを外し、上半身の筋肉を露出させる。その姿は、普通の人間のソレではなかった。
オロチの熱線弾幕を潜り抜け、アリシアは光の矢を放つ。その一撃は龍首の目を正確に射抜き、頭骨の中で跳弾して爆散する。が、それと同時に龍の頭は稲妻と共に崩れた筈の頭が再生し、傷痕が修復される。
「キリがないなぁ……こう言う時は!」と、アリシアは全身から眩い光を放って周囲を囲んでいた龍頭の目を焼いて潰す。再生に数秒かかったが、その間に彼女は高速でその場から離脱し、上空の飛空艇の後部デッキへ降り立った。
そのまま彼女はラスティーを探してデッキへと上がった。
「ラスティー! いる?」と、周囲を見回す。見た事も無い飛空艇の内装を見て口笛を吹く。
「うわ! どうやって乗り込んだんですか?!」ベンジャミンを始め、乗組員3名が狼狽する。
「飛んできたの。お、君が新しいお仲間たち?」と、ベンジャミンの目の前で屈む。
「もしかして、貴女がアリシアさんですか? 本当に生きていたとは……」
「バルバロン本土ではやっぱり有名なんだね、あたし」
そこへラスティーが現れ、アリシアにオロチの戦力を訪ねる。彼女は首が8つになった黒龍だと語り、更に何か隠し玉があるだろうと予想した。
「アレを倒すには、頭ではなく心臓を潰さなきゃね。つまり、アレを操っているヤツをね。どうやって中へ入れるかな? 一通り見回ったけど、入れるような場所はなかったなぁ」
「オロチはハッチの内側からロックを掛けるとマシンの皮膚で覆われて、外からは入れなくなるんです」と、ベンジャミンは懐を弄り、無属性爆弾を取り出す。
「うわ、嫌な思い出が」それを見て苦み走った顔を見せながら腕を摩るアリシア。
「これを使えば、中へ侵入できます。ですが……貴女では無理ですね」と、ベンジャミンは彼女をまじまじと見ながら口にする。
「それはどういう意味?」
「あれを操縦しているのはゼオと言う、ウィルガルムのスペアボディです」
「すぺあぼでぃ? どういう事?」
ベンジャミンの話では、ゼオはヴァイリー・スカイクロウ博士によって作られた人造人間であった。ただの人間のコピーではなく、メタリック細胞と言う特殊な培養液とウィルガルムの体細胞を混ぜて作られ、彼と瓜二つであった。
ウィルガルムは上半身と右腕しかなく、身体を機械で改造して生き延びていたが、その肉体も限界が近かった。その為、新たな身体を作り出し、ロキシーのネクロマンサー技術を使って魂を移し替えると言う計画を進行させていた。
しかし、問題が発生した。
10体ほど作ったウィルガルムコピーの中の一体が自我に目覚めたのであった。
ヴァイリーとウィルガルムはそれに興味を持ち、そのまま育て、ゼオと名付けた。
「で、何であたしが勝てないの?」アリシアは彼が口にする説明に耳を傾ける。
「まず、ゼオにはあらゆる戦闘データが取り込まれています。黒勇隊総隊長ゼルヴァルトを始め、魔王軍の手練れ達のデータ、更には敵対してきた戦士たち。恐らく、貴女のデータも入っています。更に、オロチ内部は狭く、インファイトが強制されるでしょう。しかし、貴女は狩人で遠距離戦が得意で、ゼオは接近戦が得意。貴女の方が圧倒的に不利です」
「成る程、的確な分析ね。で、誰が適任かな?」と、アリシアは納得しながら画面へ目を向ける。
すると、ずっと画面を眺めていたラスティーが口を開いた。
「酷使する様で申し訳ないが……ロザリアさんにやって貰おう」と、紫煙を燻らせながら口にする。画面には、未だ無傷で呼吸も荒げていない彼女が龍首から放たれる熱線を頭ごと真っ二つにしていた。
「わかった。じゃあ、この爆弾は彼女に渡すね」と、ベンジャミンから無属性爆弾を受け取り、デッキから外へ向かい、光に乗って飛んで行った。
「……オロチに無属性は効くのか?」ラスティーは疑問に思いながら訊ねる。
「対無属性フィールドは展開されているけど、フィールド発生装置の内側、つまり密着距離なら有効です」
「成る程……」
「問題はゼオですね。あいつの強さは……」
アリシアが高速で地上へと飛来し、ロザリアの元へ着地する。上空ではヴレイズが飛び回り、熱線を放とうとする龍首へ赤熱右腕をぶち込んで阻止していた。
「ロザリアさん! ここはあたし達に任せて、中へ。これを使って!」と、爆弾を手渡す。
「アリシアさん……?! はい、わかりました!」ロザリアはアリシアの光の矢が放たれるのを確認してオロチの懐へ潜り込む。
「いい? ピンを抜いてスイッチを押して、十分離れて使ってね!! 気を付けて!!」と、言っている間に彼女の背後から再生した龍首が襲い掛かる。
「おっと、あぶねぇ!!」ヴレイズがその龍首を蹴り砕き、オロチの熱線に負けない熱線で周囲を薙ぎ払う。
「ありがとう、ヴレイズ!」と、言いながら更に自分たちに注意を向ける為に光の矢を放ち、もう一本の首を爆散させる。
オロチの首8本は全て、2人に向き、一斉に口を開いて光らせた。
「ロザリアさんならやってくれる! それまで耐えるよ、ヴレイズ!!」
「あぁ! 行くぜ、アリシア!!」と、2人は余裕を含んだ笑顔を覗かせながら熱線の閃光に呑まれた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




