75.アスカを知る者
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
機械龍は気合を入れる様に咆哮し、脚を引き摺りながらもロザリアへ向かって突撃する。割れた頭や斬り裂かれた背からは夥しい青い汁を垂らし、不器用ながらもその歩行にはしっかりと殺意が籠っていた。
「戦艦の様な人工物にも見えるが……ドラゴンの様な生き物にも見える。不思議だ」迫りくる機械龍を目の前にしても、彼女は冷静に分析しながら大剣を正眼で構える。
機械龍は突如その場で静止し、大口を開いて熱線を吐き、彼女目掛けて薙ぎ払う。その攻撃に巻き込まれそうになったスカーレットは飛び退きながらも、ロザリアの次の行動に集中した。熱線が彼女の元まで迫った瞬間、再び雷光を纏った大剣でそれを斬り裂き、ずんずんと進んでいく。
すると、熱線の出力が上がっていき、機械龍の口元は太陽の様に光り輝いた。ロザリアの手元では弾丸の様に火花が飛び散っていた。
それでも怯まず、ロザリアは腰を落としながら進んでいき、ついに機械龍の口元数メートルの所まで詰める。
「これで終わりだ!!」
ロザリアはそのまま大剣を振り、機械龍の熱線エネルギーをそのまま喉の奥まで押し込み、無慈悲に振り抜く。機械龍の喉は大爆発を起こし、顎から上の頭がスッパリと斬り落される。喉奥からは火花と青い汁が吹き上がり、やっと機械龍は活動を停止する。身体は力が抜けて崩れ落ち、爆発した様に砂塵が吹き上がり、強風が巻き起こる。
ロザリアは倒れる骸には目もくれず、赤々と熱せられた大剣を眺めていた。
「あのマシンドラゴンがものの数分で……」小高い丘から見下ろしていたケンジが驚いたように口笛を吹く。「あれ一機で何億ゼルだっけ?」
「実力を確かめ、あわよくば捕獲するつもりだったが……まさかあそこまでとは」ドンオウも感心した様に唸る。
「あの兵器に護衛させるんだろ? 大丈夫か、あんなので……」と、遠くで未だ火花を散らす瓦礫と化したマシンドラゴンを見て鼻で笑う。
「相手が悪かったな。あの女は我々に迫る実力があるな」
「アスカ。そこまで強くなって帰ってくるなんて、な……さ、迎えに行くか」と、ケンジは胸に付いた機械のつまみを一回転させ、何かを起動させるように右腕の義手を光らせる。
すると、彼らの背後からガチャリガチャリと音を立てながら何者かが歩み寄る。その者は両手両足に機械義手足を取り付けたヨーコであった。
「私はあのスカーレットを頂くよ。北の賞金首でしょ?」と、手にした棍を軽く振り回す。
彼女の言葉を聞いたドンオウは目を光らせ、ヨーコのにやけ面を諫める様に咳ばらいをする。
「殺すなよ。あれはチョスコのボディヴァ家の生き残りであり、ラスティーの討魔団に所属している。情報を絞れるだけ絞って、本国へ引き渡す。いいな?」
「へいへい」と、義手義足の音を鳴らしながら闇の中へ姿を消した。
「で、あの馬車は尾行をつけているな?」ドンオウが問うと、ケンジは静かに頷いた。
「じゃ、行きますか」と、ケンジは口元をアーマーで隠し、跳躍した。
倒れて未だに燻る機械龍を目の前にして、スカーレットは辺りに広がった青い汁に触れて匂いを嗅ぐ。
「これ、知ってる……魔王軍のパワードアーマーに使われている奴と同じだ……」
「そんな兵器が一体、どうやってあんな動きを……?」と、ロザリアは自分が斬り落した頭に近寄り、歪んだプレートを引き剥がす。更に装甲やパーツを取り除き、その中で輝く宝石を見つける。
「それは何ですか?」
「……エレメンタルクリスタル? いや、少し違う……」と、宝石を取り外し、輝きを眼に映す。その宝石は心臓が鼓動する様に不気味に光っていた。
「こんなの、見た事がないですね……なんでしょう?」
「わからないが……多分、これがこの兵器を動かしていたのだろう」と、確信をもって口にし、宝石を鞄の中へ仕舞う。
「さて、もういいですね。エレンさん達を追いましょう」スカーレットはガントレットを取り外そうとする。が、ロザリアは未だに鎧を纏ったまま周囲に目を配っていた。「どうかしました?」
「殺気はないが、誰かに見られている」傍らに置いた大剣を強く握り、立ち上がる。
「え? どこに?!」
「流石だ。届いたぜ、お前の殺気」
闇の中からケンジがヒタリヒタリとやって来る。その隣には大鎧を身に纏ったドンオウがついていた。
「お前らか、ウィルガルム機甲団と言うのは」
「その通り」ドンオウが重く口を開き、ケンジに並び立つ。「大人しく捕まれば、手痛い敗北を喫する事はないぞ」
「私達が負けると? 舐めないでくれる?!」と、スカーレットが一歩進んで拳を握り込む。
「自信過剰なお嬢さんね! いたぶり甲斐がありそうね!!」と、スカーレットの頭上からヨーコが勢いよく降りてくる。棍を彼女の鼻先へ向かって振り下ろし、大地に叩き付ける。「ひゅう! 間一髪で避けた!!」
「危なかった! あんたが私の相手ね!!」と、後方へ飛び退きながら見たことの無い風貌をした相手を目にし、表情を強張らせる。
「どうかした?」両手足をこきこきと不自然に動かしながら間合いを詰め、棍を高速で振り回す。
「その腕に足……ガントレットとブーツじゃなさそうね……でも、義手義足にしては……」
「ウィルガルム様の科学技術のお陰よ。あんたもこんな風になってみる? あ、でもあんたは賞金首だから……芋虫になるだけよ!!」と、勢いよく飛び上がり、そのまま2人はこの場から数メートル先まで行ってしまう。
「あいつなら大丈夫だろ。で、お前だ」ドンオウが一歩前に出ようとした瞬間、ケンジが彼を制して前に出る。
「ここは俺にやらせてくれ。この日を20年以上待ったんだ」
「いいだろう」ドンオウはワザとらしくため息を吐き、一歩引いて腕を組む。
「よし、アスカ……フミヅキ・アスカ。俺の事を覚えているか?」と、ケンジはマスクアーマーを外し、素顔を見せる。
「私の本名を知っているのか? 一体何者?」油断しない様に大剣を正眼に構え、目を鋭くさせる。
「その腰の刀。蒼電だな? 右腕の調子はどうだ? 俺が治したことも忘れたって感じだな」と、ロザリアの右腕を指さす。彼女の二の腕は過去に斬り落された事があり、その痕が最近まであった。が、その傷はエレンが完全に治癒させ、今は残っていなかった。
「お前は、何者だ?!」
「俺の名はフミヅキ・ケンジ。お前の夫だ」
「おっと……フミヅキ・ケンジ……?」ロザリアは目を丸くし、彼の顔をまじまじと眺める。
「君の旧姓はハマカゼ・アスカ。ハマカゼ家の長女で、本当なら君が道場を継ぐはずだった。だが、あのクソ野郎共に乗っ取られ……本当に覚えていないのか? 面を取って顔を見せてくれよ、アスカ」と、ケンジは殺気も無く無邪気な笑みを覗かせながら近づく。
ロザリアは一歩引きながら兜を取り、素顔を晒す。
すると、ケンジは急に狼狽し、我が目を疑った。
「あ……アスカ……あの頃のままじゃないか!? どういう訳だ? まさか、アスカの娘? いや、それはあり得ない! だが……どういう訳だ?!」
「それは私にも解らない。だが、私はフミヅキ・アスカに間違いない」
「そうか……まぁ、いい。大人しく着いて来てくれないか? 君は俺達が保護する。もう戦わなくていいんだ。この国は生まれ変わったんだ! もう何も恐れる事はない。またあの頃の様に一緒に暮らそう!」と、ケンジは間合いを無防備に詰めて行く。
ロザリアは怯まず、大剣を握り直して睨みつける。
「近寄るな!! 私はここに魔王軍の新兵器を破壊しに来た! 誰にも邪魔はさせな……ん?」と、目を擦る。その瞳からは大粒の涙が止めどなく流れていた。「どういう事だ?!」
ロザリアは間合いを取る為に一歩引き、構え直そうとするが、止めようのない涙が視界を邪魔し、更に意志と関係なく大剣を落としてしまう。
「な、なに?」彼女の意志に関係なく声は震え、膝も折れてしまう。
「どうやら、思い出してくれたみたいだな、アスカ……」ケンジはにこやかに近づいた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに!




