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7/20 17:12

 何もない住宅街を彼女と歩く。舗装されたアスファルトの道の脇には、どこにでもあるような電信柱が並んでいる。本格的な夏の暑さが顔を出したせいで、制服の紺のブレザーに袖を通すきにはなれず雑に畳んで脇に抱える。


「乙女ゲーム? 男の俺が?」


 彼女から手渡されたばかりのゲームソフトのパッケージをまじまじと見つめてみる。タイトルは『聖女の盟約〜プリンスオブエデン〜』と言うらしい。


「何よ、夏休み暇だから面白いゲームを貸してくれって言ったのはそっちでしょ?」


 折角持ってきたのに、とでも言いたげな彼女は口を尖らせながら不満を口にする。


「そうだけどさぁ」


 正直に言うと、まさかノベルゲーム……それも女性向けの物を渡されるとは思ってもいなかった。もっとこうじっくりできるRPGとか、気軽にできるアクションゲームとか。そういう類を期待していた俺にしてみれば、肩透かしを食らった感は否めない。


「いやいやいや、食わず嫌いは良くないって」


 それでも彼女は、鼻息を荒くしてゲームを推す。


「このイケメン二人と恋でもしてろってか?」


 パッケージには二人のイケメンがでかでかと描かれている。これでもかと言うぐらいの王子様と、チャラそうな遊び人風の男だ。それから黒髪の少女が二人に挟まれるように居座っている。


「ふふっ、ひと夏の恋って奴だね」


 悪戯っぽく笑う彼女に、思わず俺は不機嫌になる……別にイケメンと恋愛したい訳じゃないだけどな、俺は。


「夏休み、今年も海外行くのか?」

「うん、八月の末に一週間ぐらいね。いやー両親が国際結婚だと里帰りも楽じゃないね」


 それとなく彼女の予定を聞き出せば、去年と変わらないものをお出しされる。


「ふーん」

「何? あたしに会えなくて寂しい?」


 興味なさそうな返事をすれば、彼女は悪戯っぽく笑いながら俺の顔を覗き込んで来た。そうだとも言えない俺は、仕方なくゲームソフトのパッケージに視線を移した。


「まぁまぁ、寂しさなんてそのゲームが紛らわしてくれるって。あたしなんて記憶を消してもう一回やりたいぐらいだよ?」

「そんなに面白いのか?」

「そりゃあもう、ね」


 彼女は得意げな顔をして面白さを力説してくれる。ただ内容が想像もつかない物を遊ぶ気にはなれなかったので、取り出した携帯でタイトルを検索しようとしたところ。


「あ、ちょっと検索したら駄目だって! ネタバレ踏んだらどうするのさ!」


 全力で彼女に止められてしまった。


「ネタバレ気にするようなゲームかこれ?」

「もちろん!」


 仕方なくパッケージの裏を眺めれば、何やらファンタジックな設定がつらつらと書き連ねられていたがテンションなんて上がるはずもなく。そんな表情を悟られたのか、彼女が小さく咳払いをしてきた。


「仕方ないなぁ、じゃあ一個だけ教えてあげよう……実はこのゲーム、隠しキャラのシナリオがすっごい良いんだ。それがこの作品の評価と言っても過言ではないね、あたしの一番好きなキャラだし」


 人差し指をぴんと立てながら、彼女はありがたいお話をしてくれる。  


「へぇ、どんな奴?」

「それは……そうだなぁ」


 彼女は一瞬言葉を詰まらせてから、黙って俺の顔を見つめ初めた。思わず顔を逸してしまうが、視線だけは向いたまま。からかうように彼女が笑って、たった一言付け加えれば。




「君みたいな奴、かな」




 心臓の跳ねる音だけが、確かに耳の奥に響いた。  

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