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オトウトデンカ七変化

 こういうのは何と言うべきか。一難去ってまた一難?いや違う。

 難解な問題ではあるけれど災難じゃないわ。


 しかしいくら王太子殿下の婚約者でも、一国の王妃殿下にこちらから面会を求めるのは難しそうだ。

 ウエディングドレスのフィッティングの時は、向こうから勝手に参加してきたようだったけど、普通ならよほどの行事がない限り、そう簡単に会うことはできないよね。


 うーん、うーんと頭を悩ますけど、全然いいアイデアは思いつかない。

 朝食の席までそのまま唸っていると、ミヨが仕方がないなあという態度で提案をしてきた。


「素直にアクィラ殿下を通してお願いすればいいじゃないですかぁ。記憶を思い出すためって言えば取り計らってくれませーん?」


 まあね、それも考えはした。したんだけれど……


「アクィラ殿下は十年前のことを王妃殿下に尋ねられるのを嫌がっているふうなのよね。なんとなく、だけれど」


 あのパーティーで初めて挨拶した時、王妃殿下の言葉を遮ったのはアクィラ殿下だった。


「ふーん、面倒くさい人ですねえ。じゃあ、王太子妃になるための心得を教えてもらいたいんですってお願いしたらどうですー?」


 おっと、ミヨらしい言いっぷりだけど面倒くさいとは、ちょっと言い過ぎだ。

 複雑な人ってくらいだと思うけどね、私は。そして思いっきり不敬です。


 だが、確かにそれならいい訳にはなりそうだ。昨日のビューゼル先生のとこからの帰り道にも、記憶が戻っているか確認したくらいなのだから、アクィラ殿下だって私が早く記憶を取り戻した方がいいだろう。

 そうして、お伺いという手紙を持ってアクィラ殿下の元、ヨゼフに使いを頼んだのだったのだが――


「王妃殿下は結婚の儀の取り仕切りに忙殺中のため、王太子妃としての心得の指南は儀式後にお願いすることにした」


 要約するとそんな意味のことを書いてある返事が夕食前に届き、読んで思った。

 ないわー、意味ないわー……っていうか、結婚の儀まで残りひと月をきって、王妃殿下がそこまで忙しいのだろうか?


 いや、王太子の結婚だから外交やら何やらで当然仕事としては普段よりもやることは多いだろうが、お姫様抱っこの時なんか国王陛下がこっち覗き見してたのを見かけたよ。

 それから、多分アクィラ殿下と廊下で話をしてる時も見かけた。隠れてたけどあれは絶対にそうだった。

 国王陛下が王宮内をあれだけちょろちょろしていながら、王妃殿下が忙しすぎて面会できないというのが納得できないわ。


 けれども正式に申し込んだにもかかわらず、断られたのならばそれ以上はどうにもならない。

 次はどうするかと考えても、このトラザイドで私の知っている、かつ話しかけても問題ない人間は数少なかった。というかほぼ一人だ。じゃあ、まずはその人をお茶に誘ってみよう。


 さて、十年前かー、だとするとその頃三つくらい?知らないかなあ?あまり期待はしておかないようにしておこう。

 そう考えながら、お誘いをするためにペンを持った。


***


「メリリッサ公女殿下、本日はお招きありがとうございます」


 頬を染めながら可愛らしい仕草でお辞儀をするアウローラ殿下に顔がにやけるが、私の後ろから、むふっ、むはっと隠すつもりもないミヨの荒い鼻息に我に返った。

 どうもミヨは可愛い女の子に会うと、着飾らせたい病が発症する。ちょっと、もう少し静かにしてちょうだいと小さな声で叱るがほとんど意味は無い。


「こちらこそ、ようこそいらっしゃいませ、アウローラ殿下。どうぞお入りください」


 そう言って、私の部屋へと招待する。

 先日のお茶会があんな事故で急遽終わってしまったため、もう一度ゆっくりとお話しませんかと手紙を送れば、その日のうちに「ぜひ」と返事が返って来た。

 だから鉄は熱いうちに打つべきよね、と思い即行で翌日セッティングさせてもらったのだ。

 思い通りに事が運んだと、にこりと笑顔を返せば、さらにアウローラ殿下の頬が上気する。


 あー、もうっ、可愛いなあ。

 なんかもう聞きたかったことなんかどうでもいいなって気にさせられた。


 がっ、しかしアウローラ殿下に従っている三人の侍女と一緒に部屋に入って来た、騎士の格好をした者の顔を見た途端、ぎょっとして思いっきり後ずさった。


 肌に何か塗っているのか、地肌よりもかなり色黒になっているし、髪にも茶色い粉のようなものをかけて輝くような金髪を隠しているつもりなのだろう。


 そうして、ただの従者ですよーと、しらっとなんでもない顔をする彼を、私はパーティーで見かけたことがある。


 ていうかアクィラ殿下に紹介されたから忘れるわけがない。

 その彼をまさかこのまま放っておくわけにもいかないから、後ろ手でハンナにお茶の追加の指図しながら声をかけた。


「ええと……あの、今すぐお席を用意しますね、イービス第三王子殿下」


 私のその声に、「えっ!?」と大きな声で返される。

 そんなまさか?ときょろきょろ目を泳がせておいて、一言作ったような低い声で「違います」と答えたけど誰が騙されるか。

 アウローラ殿下の方も「やだ、やだっ、違いますよー」などと慌ててイービス殿下の顔をぐりぐりと両手で隠し揉みだした。


 なんてこった。バレないとでも思ったんだろうか、この王子様と王女様は?


 百合香であった時、施設でも小さい子がこんな誤魔化し方をしているのをよく見たけど、それはあくまでも小学校低学年までだった。

 アウローラ殿下は十三歳だと聞いたし、確かイービス殿下は十五歳よね。十五歳になってもこれは少し残念だな、うん。


 呆れたのと同時に、この二人の兄であるアクィラ殿下にちょっと同情した。

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