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派手!!?

 一夜明けて、昨日のアクィラ殿下の約束を思い出す。もうそれだけで胃がキリキリしだした。

 実際、晩餐で出された食事で胃がもたれてもいるが、それ以上に明日催されるというパーティーが怖い。


「っはぁー……」


 さっきから何度もついたため息をもう一度繰り返すと、それをずっと大人しく聞いていたハンナがとうとう口を挟んできた。


「リリー様。そこまでパーティーがお嫌でしたら、体調不良ということでお断りなさいますか?」


 心配そうに私の顔を覗き込みながらも、その手はせわしなく動く。今は私の髪を梳き、朝の支度をしてくれているのだ。

 艶やかな金髪は、こうやって櫛を入れるたびに光り輝く。その金の糸に縁どられた白い肌はまるで焼き物の人形のようになめらかで、つぶらな瞳に形のいい唇が最上のバランスで配置されている。


 鏡越しに見ても、そうそう存在しないだろう素晴らしい美少女っぷりに、本来ならばうっとりするべきなのだろうが、あまりにも考えることが多すぎてそれどころじゃない。


「……ダメよ、ハンナ。そんなことをしたら、今度こそアクィラ殿下に愛想を尽かされてしまうわ」

「でも、……リリー様のそんなお姿を見ていられません」


 ハンナの気持ちはありがたい。そして本音はその言葉に飛びつきたいくらいなのだけども……


「や、そりゃダメでしょう」


 ミヨがそんな甘い考えをバッサリと切り捨てる。


 うーん、確かに無理だ。

 私は知らなかったのだけれども、一度延期をしているのだという。

 これで再延期などという話になれば、ただでさえ地に堕ちている私の評判が地面にめり込み二度と這い上がれなくなってしまう。


 しかもアクィラ殿下の言葉通り、近しい者だけを集めたパーティーだというのならそれは、近親者への私のお披露目ということだ。

 ならどんなに嫌でもこのパーティーは出席しなければならない。


 なぜならこれは、これから私がトラザイド(この国)で生きていく上での明暗を分ける宴なのだから。


 そう思うとさらなるため息が漏れる。

 しかしそんな私に向かい、いい加減にしましょうと発破をかけ、ミヨがドレスを並べ始めた。


「せーっかく着飾るチャンスなんですから、早くドレスを決めちゃいましょうよー!そうしないと、髪形もアクセサリーも化粧すら決められないじゃないですかっ!」


 そっちか!

 てっきり私のうだうだと考え込んでいる姿を見て、叱咤してくれたのだとばかり思っていたのに違ったよ、おい。


「ふ……はは、はっはは」


 けど、それこそがミヨらしいと、思わず笑ってしまった。そうして声を出して笑っていると、段々とひきつった顔の筋肉もほぐれてくるようだ。


「そうね、さっさと決めてしまいましょう。そして昨日話したように、散歩もしたいわ」


 絶対に回避できないのだから仕方がない。

 ここは気持ちを入れ替えて支度をしよう!と思いつつも、消極的な私は少しでも目立たなくしたいので、シンプルなドレスを探す。

 しかしミヨが選んできたものは大きなフリルのついた派手な色目のものしかない。


「ねえ、ミヨ。もう少し地味なものはないのかしら?」

「夜会用のはどれもこんなものですよ。普段着のドレスじゃないんですからー」


 ううっ、そうか。ドレスなんか縁のない世界に居たから全くわからないよ。

 スーツだって、看護学校の入学式用に買った、量販店のつるしのヤツ一着しか持ってなかったんだからさあ。


 うーん、うーんと首を捻って考えていると、今度はハンナがジュエリーボックスらしきものを手に取り近づいてきた。


「…………あの、リリー様っ」


 ハンナの眉が下がり、半分くらい泣いているように見えるんだけど……まさかね?


「わ、私、こちらへ来る前には、ちゃんと確認したはずだったのですが……うっ、リリー様の、リリー様のっ……」


 ……ああ、全部聞かなくても、なんかわかってしまった。

 ミヨの方へと顔を向ければ、彼女も苦虫を嚙み潰したような表情をして、私の方を見ていた。

 ハンナがそれ以上言葉に出来ないと、ジュエリーボックスを開き、私に中を見せる。


 はい、見事に中身、すっかすかーっ!


 これはいったいどういうことなのだろう?


 こちらへ来てからというもの、ほぼ出歩かなかった私の部屋に、気づかれることなく侵入されるということはあり得ないと思う。

 一応、護衛騎士のヨゼフは部屋の前に立っているし、部屋の位置は棟の一番隅っこだ。


 だとしたら、このジュエリーボックスの中を抜かれたのは間違いなくモンシラ公国を出る前のはず。

 私たちがこちらへ発った時には、すでにメリリッサは大国ガランドーダへとあのロックス殿下(エロガッパ)と共に行ってしまっていたから、彼女ではないと思うんだけれどもー……


「どう思う、ミヨ?」

「あの一件で、大天使リリコット様の株はうなぎのぼりでしたからねえ。多分、頼まれればやる人間は多かったと思いますよ」

「……頼んだと思う?勝手な嫌がらせ単独犯じゃなくて」

「頼んだに決まってますよぉ。なんせ全部欲しがる狐ですから」


 メリリッサに対する総評は全く同じだ。


 しかし、ここまでやるといっそ清々しく感じてしまうね。

 ムカつくのはともかくとして。


 ハンナの持つ、すかすかのジュエリーボックスの中をもう一度見てみると、大ぶりのエメラルドのような美しい緑の宝石がついたネックレスと揃いのイヤリングを見つけた。


 あー……これ、これって、確かあの例の宴の一件の時に、リリコットが身につけていたアクセサリーだ。


 どうしてあの日、自分の婚約者の瞳の色であるブルーのアクセサリーでなく、緑色だったのか、今ならわかる。


 これは、アクィラ殿下の瞳の色そっくりなのだ。


 流石にこれはエロガッパの手前、持って行くことは出来なかったのだろう。


 その緑のイヤリングを手に取り、じっとみつめる。

 透き通るような美しさは、確かにアクィラ殿下の色だ。一見冷たくも感じたが、こうして宝石としてみると、とても綺麗だと思う。


 まあ、ちょうどいい。私としては、このアクセサリーが残っていただけでもオーライだと思わなければ。


「ミヨ、この宝石に合わせたドレスを選んでちょうだい!そうしたらハンナは髪型を、ばっちり決めていくわよ!」

「はーい、どうせなら一番目立つくらい派手にしましょうねー」

「っはい、……頑張ります」


 ふっふっふっ、なんか逆やる気がでてきた。

 ここまでやられて逃げ帰る真似をしたら女がすたるってもんよね。


 まあ見てなさい、絶対にここは乗り切ってやるわよ!

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