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消えた記憶と愛する人の嘘 93 「止まらない思考の渦」
まいは、ただじっと窓の外を見つめていた。
夜の静けさに包まれた街並みは、穏やかで変わらないはずなのに、自分だけが取り残されてしまったような気がする。
何を考えていたのか、もうわからない。
時間の感覚さえ曖昧になり、ただ空を見上げる。
その瞳には、深い悲しみが滲んでいた。
寂しさが胸の奥に染み込んでいくようで、何もする気力が湧かない。
頭の中では、誰にも話していない”ある考え”が、止まることなく繰り返されていた。
まるで、壊れたレコードのように、同じ思考が何度も巡る。
……謙……
名前を思い浮かべるだけで、胸が締め付けられる。
謙がそばにいない今、この不安から逃れることができない。
考えれば考えるほど、悪い方向へ引きずられていく。
こんな考えやめなきゃいけない、
いつか謙に話す時が来る
わかっているのに。
でも、この不安はどうしても消えてくれない。
まるで、暗闇の中で出口のない迷路に閉じ込められたようだった。




