表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/361

消えた記憶と愛する人の嘘 81 「静寂から始まる会談」



エレベーターの中は、妙に静かだった。


橘と栗原、そして総務課長の山口——三人は無言のまま、11階のボタンが光るのを見つめていた。

機械音だけが静かに響く密閉空間。


栗原は少し落ち着かない様子だったが、橘は冷静な表情を保っていた。

すぐに会談が始まるわけではないが、病院側がどのような態度で出るのか、その空気を慎重に探る必要があった。


チン。


エレベーターが静かに停止し、扉がスライドする。


目の前には、広々としたフロアが広がっていた。

白を基調とした清潔感のあるオフィス空間。


デスクに向かい、黙々と業務をこなす職員たち。

電話の呼び出し音、キーボードを打つ音、書類をめくる音が絶えず響く。

どこを見ても忙しそうな光景が広がっており、二人の病院に対する印象をさらに強めた。


「すごいですね……」


栗原が思わず小声で呟く。


「ここまでの規模の病院、なかなかないですよ。設備も整っているし、働いている人たちの雰囲気も違う」


「……ああ、まさに別格だな」


橘も頷いた。


二人は山口の後を追い、フロアの端にある通路へと進んだ。

しばらく歩くと、落ち着いた雰囲気の会議室の前に辿り着いた。


山口が扉を開けると、すでに整えられたテーブルと椅子が並び、窓の外には市街地の景色が広がっていた。

明るく開放的な空間だが、これからの会話を考えると、どこか緊張感を覚えずにはいられない。


「どうぞ、中へ」


山口に促され、二人は会議室に足を踏み入れる。


席に着く前に、ふと扉が開いた。


入ってきたのは、白衣ではなくシンプルなスーツ姿の女性だった。

手には湯気の立つ湯呑みを載せたお盆。


「失礼いたします」


そう言って、女性は静かにテーブルの上に湯呑みを置いた。

香ばしいほうじ茶の香りがふわりと広がり、一瞬、張り詰めた空気が和らぐ。


「ありがとうございます」


橘と栗原は軽く会釈をし、女性が退出するのを見送った。


すると、間もなくして先ほどの山口が再び部屋に入り、もう一人の男性を伴っていた。


年齢は40代半ばほどだろうか。

穏やかな雰囲気を纏いながらも、どこか鋭さを感じさせる男。


「お待たせしました」


山口が一言述べた後、横の男性を指し示す。


「こちら、総務部部長の枝です」


「橘です。よろしくお願いいたします」


「栗原です。お時間をいただきありがとうございます」


二人はすぐに立ち上がり、一礼した。


「いえ、こちらこそ」


枝は穏やかに微笑み、軽く頭を下げる。


橘はカバンから手帳を取り出し

開いた。

今回の訪問の目的は明確だったが、病院側がどこまでの情報を開示するのか、それはまだわからない。


「お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます」


まずは、ありきたりな挨拶から始める。


山口が頷きながら、「どうぞ、お掛けください」と手で示した。


橘と栗原は、それぞれ席についた。


目の前には、総務課長と総務部部長。

対面での会話が、今まさに始まろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ