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消えた記憶と愛する人の嘘 76 「すれ違う気持ち」


まいが、俺のために出かける準備を手伝ってくれていた。


「これ、大丈夫かぁ? なんか……若くないか?」


鏡に映った自分を見ながら、少し違和感を覚えてそう尋ねる。スーツではなく、ジャケットにシンプルなシャツ。普段の俺がどんな服装をしていたのかも分からない今、まいが選んでくれた服が俺に似合っているのか、正直自信がなかった。


すると、まいはクスッと笑いながら、俺の肩を軽く叩いた。


「大丈夫だよ! これくらいカッコつけて行ってきな!」


俺の顔を覗き込むように言うまいの表情は、まさにいつもの彼女だった。


——さっきまでのまいは何だったんだろう?


食事のときは、どこかよそよそしくて、まるで距離を取るような雰囲気だったのに。今は、まるで何もなかったかのように明るく、いつも通りのまいがそこにいる。


(気のせい……なのか?)


そう思いながらも、心の中には小さな引っかかりが残っていた。


ネクタイを直しながら考え込んでいると、不意にまいが聞いてきた。


「謙は何時ごろ帰ってくる予定?」


「うーん……はっきりわからないかな。でも、帰るときLINEするよ。」


そう答えると、俺は少しだけ冗談めかして言葉を付け加えた。


「今日はLINEフル活用してみるな。」


すると、まいは少しだけ驚いたような表情を見せてから、すぐに微笑んだ。


「わかった。LINE待ってるね。私もするから。」


俺が玄関のドアに手をかけると、まいはいつも通りの笑顔で送り出してくれた。


——やっぱり、さっきの違和感は考えすぎだったのか?


でも、ほんの一瞬だけ。


まいの「私もするから」という言葉が、何かを含んでいるような気がして、俺は彼女をもう一度振り返った。


けれど、そのときにはもう、まいはいつものように明るく微笑んでいて——


俺は、特に何も言わず、玄関を出た。



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