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消えた記憶と愛する人の嘘 72 「静かな朝と、小さな違和感」



翌朝。


まいが朝食の準備をしている間、俺はテーブルに座り、昨夜から気になっていた社員証を手に取った。


白いカードの中央に、俺の名前が記されている。その横には「人事部」の文字。


……俺は、人事部だったのか。


今の俺には、それがどんな仕事だったのか、どんな毎日を送っていたのか、まるで思い出せない。ただ、社員証を眺めていると、妙な感覚が胸の奥に引っかかる。懐かしいような、遠いような、そんな感覚だ。


とはいえ、今は考えても仕方がない。


「とりあえず、電話だけしてみるか……。」


そう決め、スマホを手に取った。まいには、昨日のうちに「会社に顔を出してみようと思う」と伝えていた。まずは電話で状況を確認してから、実際に行くかどうかを決めよう。


「まい、今から電話するからな。」


そう言うと、キッチンのまいがちらっとこちらを見て、少し眉をひそめた。


「……本当に電話するのぉ?」


どこか不安そうな、もしくは迷っているような声だった。


俺は軽く笑い、まいを安心させるように言う。


「大丈夫だよ。しばらくは仕事復帰できないし、ただの挨拶だから、安心しろって。」


それでもまいは、少し浮かない表情をしていた。


なんでだろう?


会社に電話をするだけなのに、まいはなぜこんな顔をするんだろう?


ほんの一瞬、そんな疑問が頭をよぎる。でも、俺はすぐに考えを振り払った。


「それに、アニメもまだ見たいしな。」


冗談めかしてそう言うと、まいはふっと表情を緩め、小さく笑った。


「……仕方ないかぁ。」


そう言いながら、フライパンを揺らし、ジュウッという心地いい音がキッチンに響く。


まいは納得してくれたみたいに見えるけど……本当にそうだろうか?


その笑顔の奥に、ほんの少しの迷いがあるような気がした。


……気のせいかもしれない。


「じゃあ、かけるか。」


俺は深呼吸し、スマホの画面を見つめながら、ゆっくりと発信ボタンを押した。







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