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消えた記憶と愛する人の嘘 70 「違和感の正体」



「篤志、お前、何が違和感を感じたか?」


橘が問いかけると、篤志は腕を組み、少し考え込むように視線を落とした。


「んー……なんか、両方ともわかりきった答えだったんですよね。」


「わかりきった?」


橘が促すと、篤志はゆっくりと口を開いた。


「起きた事故、それも同じグループの病院で続けて起きていたのに、各病院の間で情報が共有されていないのが単純に不思議かなと。普通、こういうことが続いたら広報とかで注意喚起があったり、内部で何かしらの伝達がされると思うんです。でも、そういう話は一切なかった。」


橘は篤志の言葉を黙って聞きながら、顎に手を当てる。


「それと、被害者たちが会社内で特に親しい友人がいなかった点も気になります。もちろん偶然かもしれませんが……なんか引っかかるんですよね。」


篤志はもやもやとした思いを口にしながら、水の入ったグラスを指先でなぞった。


橘はしばらく考えた後、深く頷く。


「お前……あたりかもしれんぞ。」


「はぁ?」


篤志は驚いたように目を丸くし、橘の顔を覗き込む。


「明日、豊島総合病院に行くぞ。」


橘は決意を込めた声でそう告げた。


「豊島総合……?」


「ここでは犠牲者が二人出ている。しかも、そのうちの一人は生存者だ。」


「えっ? でも、記憶喪失で何も覚えてないんですよね?」


「そうだ。だが、もしかするとこの二人の間に何かしらのつながりがあるかもしれない。それを確かめる。」


橘の目には微かな手応えを感じた光が宿っていた。


彼はゆっくりと手帳を閉じ、篤志の方を見やる。


謙、お前がこの事件にどう絡んでいるのか。俺が調べて、お前の記憶を少しでも取り戻す手助けになれれば……。


橘は無言のまま、コーヒーをひと口飲んだ。苦味が口の中に広がるのと同時に、彼の中で疑念と確信が入り混じりながら、形を成し始めていた。



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