消えた記憶と愛する人の嘘 68 「繋がり始める点と線」
「橘さん、これで署に戻るんですか?」
病院を出た直後、篤志が軽く首を傾げながら尋ねた。
橘は歩調を緩めることなく答える。
「いや、もう一件、同じように話を聞きに行く。」
「えぇ?今度はどちらですか?」
「高島総合病院だ。」
その名前を聞いた途端、篤志の眉がピクリと動いた。
「えっ、今の病院は板橋総合病院でしたよね?で、今度は高島総合病院……。もしかして、この二つって同じグループの病院なんですか?」
その言葉に、橘は思わず口元を緩めた。
「へぇ……篤志、お前、なんか冴えてんじゃん。」
「いや、でも、だとしたら……」
篤志は何かを考えるように視線を泳がせた後、再び橘を見た。
「まさか、総合グループの病院に関係してる人が、みんな事故に遭ってるとか?」
橘の歩みがぴたりと止まった。
篤志は驚いて立ち止まり、橘の顔を見つめる。
「……まだ誰にも言うなよ。」
その低く重い声に、篤志はごくりと唾を飲み込んだ。
「この一年で、グループ内の関係者が四人事故に遭っている。そのうち三人は死亡した。」
「三人……亡くなってる……?」
篤志の声がかすれた。
「じゃあ……もう一人は?」
「生きてる。ただし、記憶喪失で、何も覚えていない。」
「マジっすか!?それ、やばくないですか!? 生き残ったその人!」
篤志は少し声を潜めながらも、興奮気味に続けた。
「もし、その人の記憶が戻ったら……やばいですよね? これがもし仕組まれた事故だったとしたら……。」
橘は篤志の言葉にゆっくりと頷いた。
「そうなんだよ。だから、調べ始めた。」
その声は静かで落ち着いていたが、橘の瞳には強い決意が宿っていた。
(謙を守れるのは……今、俺しかいないから。)
橘はそう心の中で呟くと、篤志に向かって
「行くぞ、篤志。」
「了解っす!」
二人は次なる目的地、高島総合病院へと向かった。




