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消えた記憶と愛する人の嘘 63 【夜景に包まれた静寂の中で】

気がつくと、部屋の照明はダウンライトに切り替わり、柔らかな光が空間を包み込んでいた。


いつの間にかカーテンは開け放たれ、窓一面に広がる夜景が、俺たちを幻想的な世界へと誘う。


街の灯りが静かに瞬き、ガラスに映る俺たちの姿が、どこか夢の中のようにぼんやりと揺れていた。


「まい、お酒飲んでるか?」


俺がグラスを傾けながら尋ねると、まいは微笑みながら俺の方を見つめた。


「なんか……飲みすぎてるかも」


ふわっと頬を染め、少し甘えたような声で言う。


その瞳には、酔いのせいだけではない、どこかとろりとした熱が宿っていた。


ゆっくりと俺の肩にもたれかかってくるまいのぬくもりを感じながら、俺は自然と腕を回し、そっと彼女の身体を引き寄せた。


ジャズの旋律が静かに流れ、心地よい沈黙が俺たちを包む。


まいの髪からほのかにシャンプーの香りが漂い、俺は無意識のうちに深く息を吸い込んだ。


「……まい、今、悩みとか、不安はないか?」


ふと、酒のせいか、そんなことを聞いてみたくなった。


俺の腕の中で、まいの身体がわずかにこわばる。


しばらくの間、彼女は何かを考えるように沈黙し、それから静かに答えた。


「大丈夫だよ。謙は……もう、いつもの謙になれたから」


そう言いながら、まいは少し寂しそうに微笑んだ。


俺は彼女の顎にそっと手を添え、軽く支えるように顔を持ち上げる。


まいの瞳が、揺れる夜景の光を映してきらめいた。


「まい……キスしてもいい?」


囁くように尋ねると、彼女はわずかに瞬きをし、それから静かに頷いた。


「……うん」


その瞬間、俺たちの間にあったわずかな距離が、音もなく消えていく。


唇が触れ合う直前、まいの吐息が震え、俺の胸の奥が熱を帯びる。


夜景の灯りが、俺たちの影を優しく照らしていた。




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