消えた記憶と愛する人の嘘 61 【豪華な晩餐と、少しの照れくささ】
出来上がった料理が次々とテーブルに並べられていく。
色とりどりの食材が美しく盛り付けられた皿の数々。
香ばしい匂いが漂い、どれもまるでレストランのコース料理のように完璧だった。
「……おい、まい。お前何屋さんだっけ?」
俺は目の前の豪華な食卓を見つめ、思わず冗談めかして言った。
「調理師か?」
軽くからかうつもりだったが、実際のところ、この料理のレベルの高さに俺は本気で驚いていた。
まいはスプーンを手に取りながら、クスッと笑う。
「趣味なんだよね、料理とか作るの」
少し誇らしげなその言葉に、俺はさらに驚いた。
これまでのまいのイメージとは少し違うと言うより全然違う。
いつも元気で、ちょっとおちゃめで、どこか抜けているようなところもある。
けれど、今のまいは、なんだか大人びて見えた。
自分の好きなことを話すときのまいは、こんなふうに自信に満ちた顔をするんだな——そう思うと、改めて惹かれていくのを感じた。
「謙の隣に座ってもいい?」
ふいに、まいがそう言った。
普段なら何も言わずに俺の横にくっついてくるのに、今夜はやけにしおらしい。
まるで、恥じらいを持った乙女のように。
俺は、一瞬、返事をするのが遅れてしまった。
心の中で戸惑っている自分がいる。
いつもの調子で「勝手にしろよ」とでも言えばいいのに、なぜかそれができなかった。
まいがこんなふうに慎ましくなるなんて思わなかったから——
「……どうしたの?」
まいが不思議そうに俺の顔を覗き込む。
その視線に耐えられず、俺は思わず視線をそらした。
「別に」
誤魔化しながら、ビールのグラスを口に運ぶ。
けれど、俺自身、顔が赤くなっているのがわかっていた。
恥ずかしい。
なんで俺がこんなに意識してるんだ?
まいは、そんな俺の様子をじっと見つめた後、ふふっと笑った。
「謙、今、ちょっと可愛いかも」
「……うるさい」
俺はぶっきらぼうにそう言ったが、まいの笑顔が可愛くて、ますます顔が熱くなった。
部屋には柔らかいジャズが流れ、窓の外には静かな夜景が広がっている。
大人の雰囲気に包まれながら、俺たちは静かに食卓を囲んだ。




