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消えた記憶と愛する人の嘘 58 【やっと、2人だけの時間】


「謙、今日は疲れた?」


まいが、少し気遣うような声で問いかけてきた。


俺はソファに深く座り直しながら、ふっと息をつく。

まいも隣に座った


「……なんか、振り返るとバタバタ濃縮した1日だったなぁ」


そう言って、ぼんやりと天井を仰いだ。


「入院中の1日の長さと、今日の1日は、流れる時間がまるで違うよ」


病室で過ごしていたときは、ただただ無機質な時間が淡々と積み重なっていく感覚だった。

でも今日は違う。

純一と再会し、記憶のない過去の話を聞いて、まいと一緒に笑ったり驚いたり……

時間があっという間に過ぎていった。


「でも、まい、大丈夫だよ? 疲れてないよぉ、どうした?」


まいの表情を見ていると、少し様子が違うことに気づいた。


すると、まいはふわりと甘えたような表情を浮かべて、そっと俺にもたれかかってきた。


「やっと、2人になれたね……」


その声は、小さくて、でもどこか切実な響きを帯びていた。


「……長かった。3週間……どんな思いで、謙を待ってたか、謙はわからないでしょ?」


まいの肩が、ほんの少し震えているのが伝わる。


「毎日、不安ばかりで……謙の顔を見に行かないと、何も手につかなかったの」


そう言いながら、まいの瞳には涙が溢れていた。


「謙が目覚めた時……ほんとうに嬉しくて……」


まいの声が震え、こぼれた涙が頬を伝う。


俺は、そっと手を伸ばし、まいの背中に触れた。


「……ごめんな。心配かけたな」


静かにそう言いながら、そっと彼女の体を引き寄せる。


まいの小さな肩が、俺の胸に収まるようにすっぽりと抱きしめた。


彼女の体温がじんわりと伝わってくる。


俺の胸の中で、まいは小さく嗚咽を漏らしながら、涙を流していた。


——2週間、俺が目覚めるのを待ち続けてくれたんだ。


——不安で、寂しくて、怖くて、それでも俺のために毎日病室へ通ってくれていたんだ。


「まい……」


俺は、彼女の髪をそっと撫でながら、ただ静かに寄り添った。


今すぐに言葉で何かを伝えるよりも、この温もりで、少しでも安心させてやりたかった。


しばらくの間、俺たちはそのまま動かずにいた。


まいの涙が落ち着くまで、ただただ、そばにいることだけを大切にしたかった。




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