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消えた記憶と愛する人の嘘 56 【思い出のページ】


「俺らC組だったんだよ」


純一が懐かしそうにアルバムを指でなぞりながら言った。


「C組……」


俺は呟きながらページをめくる。

見覚えがあるような、ないような——いや、やっぱり何も浮かんでこない。


「担任が江面だったよな」


純一はクスッと笑いながら言葉を続けた。


「よく影で『ズラ、ズラ』って言われてたんだよ」


「え? なんで?」


まいがアルバムを覗き込みながら、不思議そうに顔を上げた。


「いや、ちょっと髪の毛が……な?」


純一が言葉を濁しながら苦笑すると、俺もなんとなく想像がついた。

そういう噂話、高校生にはありがちだ。


そのとき、まいが突然、指をパッと立てて声を上げた。


「いたーっ!」


ページの中の一人を指差している。


「謙、これ! ほら、いたよ!」


俺はその写真を覗き込む。


確かにそこには、俺らしき少年が写っていた。


「謙、若かったねぇ……」


まいがぽつりと呟く。


「そりゃ高校生だからな」


そう答えると、純一が俺たちを見ながら笑った。


「ほんと、お前ら仲いいよなぁ」


その言葉にまいが「えへへ」と小さく笑う。


——それから、話は自然と部活のことへと移っていった。


「俺ら、地味な陸上部だったんだよ」


「え? 陸上部?」


まいが目を丸くする。


「なんか、謙ってサッカーとかバスケとか、もっと派手なスポーツやってそうなイメージだったけど……」


純一は「あー」と納得したように頷いた。


「まぁ、確かにそう思うかもな。でも、こいつと俺、短距離走で結構頑張ってたんだぜ」


「へぇ〜!」


「県大会までは毎回行けたんだけどさ……その先が、いつもダメでなぁ」


純一の声に、少し悔しそうな色が混じる。


「スタートダッシュは得意だったけど、後半の伸びがイマイチでな。俺も謙も、100mじゃ県の壁を越えられなかったんだよ」


「そっかぁ……」


まいは感心したように頷きながら、アルバムの写真を眺めた。


「でも、俺ら頑張ってたんだぜ? 練習終わったあと、ダッシュのフォームとか、お互いスマホで撮り合って、どうしたら速くなるか真剣に話してたし」


純一が思い出したように笑う。


「で、県大会で負けた帰りは、決まってコンビニに寄って——」


「カップヌードル?」


俺がなんとなく口にすると、純一はパッと顔を輝かせた。


「お! ちょっと思い出したか?」


「いや……なんとなく」


自信はなかった。だけど、どこか懐かしい気持ちになったのは確かだった。


「そうそう、毎回『くっそー、もうちょっとだったのになぁ!』とか言いながら、コンビニの前でカップヌードルすすってたんだよな」


純一は、まるで昨日のことみたいに語る。


「ちょっと待って! それ、カップヌードルの何味だったの?」


まいが食いついた。


「え、そんなのしょうゆ味に決まってんじゃん?」


「えぇー! カレー味じゃないのぉ〜?」


「いや、最後にスープまで飲み干したいなら、しょうゆだよ」


「でも、カレーのほうが満足感あるし!」


「それじゃ汁まで飲めねぇじゃん?」


「私、女子ですので飲まないし〜!」


まいと純一が、笑いながら妙にどうでもいいことで盛り上がり始める。


——俺は、それを静かに聞きながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


部活のこと、残念会のこと。

俺は思い出せなくても、こうして話を聞いているだけで、確かにそこに自分がいたんだと思えた。


記憶はなくても、純一の語る俺の過去は、確かにここにある。


まいは、そんな俺たちの過去の話を珍しく静かに聞いていた。


「……謙の高校時代、ちょっとだけ知れた気がする」


そう言って、小さく微笑んだ。




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