消えた記憶と愛する人の嘘 39 「夜の静寂と、Uruの歌声」
その日の夜、まいは 知り合いとの約束があるらしく、夕食前には病室を後にした。
「じゃあね、謙。明日また来るから!」
いつもの 明るい笑顔 を見せながら、まいは手を振って病室を出ていく。
俺も手を軽く振り返しながら、 まいがいなくなる病室の扉をぼんやりと見つめた。
急に訪れる静寂。
夕食を済ませ、ベッドに腰を下ろす。
病院の白い天井を見上げながら、ふと思い出す。
音楽でも聴こう。
そう思い、まいが用意してくれたAirPodsを耳に入れ、携帯を開く。
まいが教えてくれた音楽アプリを開き、Uruの曲を検索する。
「どれにしようかな……」
指でスクロールしているうちに、ふと気になった曲をタップした。
流れてくる 静かで、透き通った歌声。
心に じんわりと染み渡るようなメロディ。
いくつかの曲を聴いていると、なぜ俺が Uruのライブに行きたかったのか、少しだけ理解できた気がした。
今の俺の心境に、不思議としっくりくる歌詞。
まるで 記憶を失った俺に寄り添うような言葉 ばかりだった。
でも、そこでふと ある疑問が湧いてくる。
あのチケットのことだ。
俺のバッグのサイドポケットから見つかった、3枚の未使用チケット。
なぜ 3枚 なのか。
もし 2枚なら、まいと俺の分 だろう。
でも、あと1枚。
一体、誰の分だったんだ?
考えても答えが出るはずもなく、 ため息をついて携帯を置いた。
「今考えても仕方ないか……」
薄暗い病室の中、ぼんやりと天井を見上げながら 小さくつぶやく。
いつか 機会があれば、まいに聞いてみよう と思った。
少しだけ胸の奥がざわつく。
だけど、今はそれ以上深く考えたくなかった。
手を伸ばし、枕元のスイッチを押す。
部屋の明かりがふっと消える。
イヤホンから流れる Uruの歌声だけが、静かに部屋の中に響く。
そのまま、俺は 目を閉じ、音に包まれながら眠りに落ちた。




