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358 【その訳は……】


まい、これから話すことは……俺がこの数日間、ずっと胸にしまっていたことなんだ……


嘘じゃない。夢でも、作り話でもない。これは全部、現実に起きたことなんだ。


覚えてるだろ?

まいと別れる時、俺は約束したよね。

「事件にはもう関わらない」って。

あの時は本気だった。まいと過ごした日々を守りたかったし、まいの平穏な生活を壊したくなかったしね


まいは静かに頷いた


それで俺は、まい達と別れて一人で部屋に戻った。何も関わらないただの男として、日常に戻るつもりでね


まいの顔を見ながら俺は続けた.


でも――俺が部屋のドアを開けた瞬間、すべてが変わった。


中は……めちゃくちゃだった……

家具は倒れ、引き出しは開け放たれ、書類や衣類が散乱していた。

まいと一緒に暮らしたこの部屋が、まるで嵐に襲われたみたいに壊されていた。

俺たちの笑い声が染み込んだ部屋、キッチンも、寝室までも、全部、何もかもが踏みにじられていたんだ。


俺はその光景に言葉を失った。

でも、それ以上にショックだったのは……まいが作ってくれたこの部屋が見る影もなかった事だった


そのあと、警察が来て捜査が終わったあと、1人で片付けたがこの有様だよ。元に戻したつもりでも……

まいが気持ちをこめて作ってくれた部屋には元に戻す事が出来なかった……

まいの愛情がこもった部屋にはね

すごく悔しかった………


あとノート….…


覚えてる?

2人で夜中にコンビニのスイーツ食べながら、「どこ泊まる?」「このルートなら海も見えるよ!」って

ワクワクしながら書いた、あのノート。


一緒に書いた、北海道旅行の計画

どのルートで回るか、どこに泊まるか、何を食べたいか――全部、夢みたいに笑いながら決めたあのノート。

その一部が……切り取られていたんだ。

ちょうど、移動ルートと宿泊先が書いてあったページだけが、切り取られていた


「まい……見て……」

そう言って、俺は立ち上がり、机からノートを取りまいに見せた。


まいはそのページを見た瞬間、息を呑んで、口元を押さえた。

声も出せずに、ただ驚いていた。


この現実を見てその時すべてが繋がったんだ。


あの函館山の件、銃撃事件……全部、そいつは知っていたんだよ。俺たちの行動を……

あいつは、このノートを元に、俺たちの行動を把握してた。

突発的なんかじゃなかった。俺たちの旅路を、あいつは最初から知っていた。


……俺は悔しかった。

怒りで手が震えて、何もかもを壊したくなるくらいに。

でも、本当にまいに心配かけたくなかった。


ほんとは何も言わず、黙って我慢するべきか、悩んだよ

でも、悔しくておさえきれなかった。


まいは謙の苦しかった事を徐々に理解し出した.


だから、信頼できる相手――純一に相談したんだ。


純一は言ったよ。「これ以上、関わるな」ってね。

冷静で正しい判断だったと思う。

でもね、俺にはできなかった……


まいと一緒に生活したこの部屋を、壊していった奴のことが……

あいつに踏みにじられたことが、どうしても許せなかった。


まいの目には涙が溢れ出していた……


ノートだけじゃない。

まいとの思い出だったんだ。この部屋は俺の、大事な居場所だったんだ。

離れてその気持ちがなおさら強くなっていった。


だから……俺……動くことを決めたんだ。


それ以上に邪魔をされたくない、守りたいものに改めて気付いたから…


絶対にまいには手を出させない。やられる前にやるって考えに変わってきたんだ


まい、これが……事実なんだ……


そう静かに伝えると、まいはしばらく何も言わずに俺の顔を見つめていた。

驚きも、怒りもない。けれど、その目にはどこか切なさがにじんでいた。


やがて小さく頷いて、ぽつりと言った。


「謙……。私が“やめて”って言っても、もう……決めてるんだよね」


その声は震えていて、でもどこか、そんなまいにも覚悟がにじんでいた。

謙の性格を、行動を、誰よりも知っているまいだからこそ、もう止められないことを感じ取っていた。


俺は何も返せなかった。

返せる言葉が、見つからなかった。

ただ、まいのその想いを、まっすぐ受け止めるしかなかった。


しばらくの沈黙のあと、まいは静かに続けた。


「……謙、お願い。これだけは、絶対に約束して。

わたしを……ひとりにしないでね」


その言葉には、たくさんの想いが詰まっていた。

守られるばかりの“弱い女”じゃなくなっていたまい……

でも、大切な人にだけは失いたくない……

そんなまいの真っ直ぐな気持ちだった。


そして次の瞬間、まいはそっと俺の胸に身を寄せてきた。

俺の腕の中に飛び込むように、小さく、でもしっかりと抱きついてきた。



不安も、願いも、全部この抱擁に込められているようで――

俺は何も言わず、ただまいをしっかりと抱きしめ返した。




いつも『消えた記憶と愛する人の嘘』をお読みいただき、本当にありがとうございます。


物語もいよいよ佳境に入り、あと数話で一度、物語の区切りとしての最終回を迎える予定です。


ですが、これは終わりではありません。


新たに【消えた記憶と愛する人の嘘2】として、続きを投稿していく準備を進めております。

そのため、少しの間だけ投稿をお休みさせていただき、物語の構成をもう一度丁寧に見直し、

皆さまにさらに深く物語の世界を楽しんでいただけるように整えていきたいと思っております。


謙太郎と舞子、そして彼らを取り巻く登場人物たちが、これからどんな未来を紡いでいくのか。

ぜひ楽しみに待っていていただけたら嬉しいです。


いつも温かい応援を本当にありがとうございます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


          茅ヶ崎 渚


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