消えた記憶と愛する人の嘘 33 「そっと覗く扉の向こう」
まいは、扉の取っ手にそっと手を添え、できるだけ音を立てないように ゆっくり 開けた。
ほんの少しだけ隙間を作り、そこから そっと顔を覗かせる。
—— 謙、寝てる?
病室の中をそっと見回し、ベッドの上の彼を確認すると、目を閉じているのがわかった。
静かな寝息が聞こえる。
(……ふふっ)
思わず口元が緩む。
覗き込んでなんだか 急に、イタズラ心 がむくむくと湧いてきた。
せっかく謙が寝ているんだから、ちょっと驚かせてやりたい。
「さて、どうしようかな?」
扉の隙間からじっと見つめながら考える。
—— そっとキスをする?
それとも、いきなり ハグして驚かせる?
想像するだけで、おかしくなってしまいそうだった。
「きっとびっくりするだろうな」と考えたら、笑い声が漏れそうになる。
(ダメダメ、今ここで笑っちゃったらバレちゃう!)
慌てて 両手で口を覆い、肩を小さく震わせながら 必死に耐える。
(……うん、決めた。やっぱり キス かな)
そっと病室へ 入り、一歩、また 一歩。
足音を立てないように慎重に近づいていく。
ベッドのすぐそばまで来て、謙の寝顔をじっと見つめた。
(ほんと、寝てる?)
心なしか表情が 優しくて、少しだけ 楽しそう に見える。
まいは小さく ニコッ と微笑んで、もう一度 深呼吸。
—— 作戦、決行!
そっと顔を近づけて、彼の唇まであと少し。
あとほんの 数センチ……。
「……ふふっ」
胸の奥が 甘くくすぐったく なりながら、まいは そっと瞳を閉じた。




