消えた記憶と愛する人の嘘 32 「静かに開く扉」
ぼんやりと天井を見つめながら、さっきの検診のことを思い返していた。
担当医の無機質な言葉と、それとは対照的に温かみのあるナースの笑顔。
この病院で働いていたはずの自分が、そんなことを今さら考えているのが不思議だった。
そんな時だった。
「……」
扉が 静かに、そして ゆっくり と開く気配がした。
(……まいだな)
直感的にそう思った。
病室に入るとき、彼女はいつも勢いよく扉を開けるわけじゃない。
どちらかというと、音を立てずにそっと入ってくることが多い。
しかも、なんとなく “いたずら” を企んでいる時ほど、妙に慎重だったりする。
(何か考えてるな……)
そう思うと、思わず クスッ と笑いそうになった。
(よし、ここは寝たふりをして様子を見てみるか)
ゆっくりと目を閉じる。
まいがどんな風に俺を驚かせようとしているのか、少しワクワクする。
たまには、こっちが 逆に驚かせてやる のも面白いかもしれない。
彼女の悪戯っぽい笑顔を思い浮かべると、無性に イチャイチャしたくなる 自分がいた。
こうして考えているだけで、まいが愛おしくてたまらない。
(……もう完全に まいにハマってる な、俺)
心の中でそう呟きながら、
まいがどんな行動を取るのか “楽しみながら” 待つことにした。




