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275 【夕食を終え、沈黙の中で始まる真実の話】


夕食を済ませたあと、純一と謙は向かい合ってソファに座った。

静かな部屋の中で、グラスの中の氷が微かに音を立てる。


「さて……」と純一がぽつりと口を開いた。


「本題、始めるか。」


謙も、静かに頷いた。

今から話すのは、ただの推測や噂ではない。

真実に限りなく近い“闇”の全貌だ。


「どこから話そうか……」


純一は一度小さく息を吐き、視線をテーブルに落とした。

それから、まっすぐ謙を見て、ゆっくりと語り始めた。


「これは、まだ全てが確定した話じゃない。だから慎重に聞いてほしい。

そして、決して決めつけたり思い込んだりしないでくれ。いいな?」


謙は真剣な表情で「わかった」とだけ答えた。


純一は、そこから淡々と、けれど慎重に言葉を紡いでいった。


「……すべては、まいちゃんのお姉さん——朝比奈麗子さんのことから始まった。」


謙の目が一瞬だけ揺れる。


「彼女は、職場で上司からのセクハラ被害を受けていた。だが、麗子さんはそれを拒否し続けていた。

その結果、上司は逆恨みし、麗子さんに“あるでっち上げの罪”をかぶせた。もちろん、根も葉もない作り話だ。」


「……」


「その嘘を、上司は麗子さんの父親にも信じ込ませた。

父親はとても厳格な人だったらしい。

娘が罪を犯したという事実を世間にさらさないと言う条件で—— 自ら命を絶った。

その死は、“娘のため”だったと聞いている。」


謙は言葉を失いながら、じっと純一の話を聞いていた。


「父を亡くした麗子さんは、怒りと悲しみの中で立ち上がった。」



「自分にかけられた濡れ衣の真相を、白日のもとに晒すために。自ら調査を始めた。

その過程で、総合グループの総務課の職員たちとあるイベントで偶然、接触した。」


「豊島で働いていた麗子さんは、板橋と高島の総務課の人たちに協力を求めた。

少しずつ、事実に近づいていったんだと思う」



「麗子さんは豊島の職員で、協力してくれたのは、板橋と高島の総合グループの総務課の人間たちだった。」


「だが、それがバレたんだと思う。」


純一の声が低くなり、謙の胸に冷たいものが広がっていく。


「……最初の犠牲者が、まいちゃんのお姉さん——朝比奈麗子さんだ。」


謙は思わず口を開いた。


「ちょっと待ってくれ……まいは、“事故で亡くなった”って……」


純一は首を横に振った。


「俺の見立てでは、それは偽装された“事故”——つまり、殺人だ。」


謙は呆然としていた


「そして、彼女の死から3ヶ月後、高島の総務課で一人……

さらにまたその3ヶ月後、板橋の職員がひとり……

調べていた人間たちが、次々と命を落としていった。」


彼女と繋がっていた職員たちが、次々と皆、同じ様な事故で命を落としていった。」


「……」


謙は息を呑む。

胸の奥がざわつく。


「……そして、その半年後。」


純一は一度、言葉を止めて謙を見つめた。


「謙……お前が“事故”に遭った。やはり同じ様な事故でな。」


謙はその瞬間

記憶の空白が頭の中に渦巻く。


「お前が巻き込まれたのも、偶然とは思えない。

いや……むしろ、何かを知りかけていたから狙われた。そう考えるのが自然だ。」


重い沈黙が、二人の間に落ちた。

謙の中で、過去の断片がかすかに揺れている。



静まり返る部屋の中で、2人の間に重苦しい空気が流れた。

純一の言葉は、疑念から確信へと変わろうとしていた。


すべてがつながっていく

そしてそのきっかけが

まいの姉、麗子の“死”であること


続いて仲間たち、そして俺。

その全員が“何か”に触れてしまったことで、命を狙われた。


沈黙の中で、謙はその全容を呑み込みながら、


純一は、グラスの中の氷が溶けていくのを見つめながら、静かに口を開いた。


「……もう一つ、話しておきたいことがある。」


謙が視線を向けると、純一は少し表情を曇らせた。


「実は、まいちゃんから――あの任意同行のときに頼まれたことがあったんだ。

お父さんの件、それからお姉さんの死について……謙には言わないでほしいって。」


「……俺に、言わないで……?」


謙の眉がわずかに動いた。驚きが顔に浮かぶ。


「そうだ。正直、俺も最初は少し戸惑った。なぜ彼女がそんな大切なことを内緒に?って思ったよ。

でも、彼女の話を聞いて、少しずつ理解できた気がした。」


純一は言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。


「まいちゃんの話だと……麗子さんが亡くなった後、お前が何かを調べていたようなんだ。

確信はないみたいだったけど、その様子を見ていたまいちゃんは……

またお前が同じように危ない目に遭うんじゃないかって、すごく心配してた。

麗子さんが亡くなったのと同時ぐらいにお前は激痩せしたことも同時期だしな」


「……」


「だから、頼んできた。

“謙には言わないでください。あの人がまた何かに巻き込まれるのは怖いんです”いなくなったら生きていけないって。」


謙は何も言わず、ただ静かに視線を落とした。


「だから、謙。……まいちゃんのこと、責めたりはするなよ。

彼女は、お父さんの死も、お姉さんの死も……本当の真相は知らないんだ。

ただ、表向きに伝えられた“理由”だけを信じている。

それだけで、ずっと心に重荷を抱えて生きてきたんだと思う。」


純一の言葉は、決して責めるものではなく、まいの想いを守ろうとする優しさに満ちていた。


しばらく沈黙が続いたあと、謙がポツリとつぶやいた。


「……今、わかったよ。」


その声は、どこか遠くを見つめているようで、けれど確かに何かを受け止めた響きがあった。


「まいが……どうして、俺が会社に行くことをあんなに心配してたのか。

なんで、あんなふうに突き放すような態度をとっていたのか……。

きっと、また俺が調べ出すって思ったんだろうな。

また危険なことに巻き込まれるんじゃないかって……怖かったんだなぁ。」


純一がそっと問いかける。


「謙、大丈夫か?」


謙はゆっくりと頷いた。


「……ああ。大丈夫だ。

むしろ……お前から聞けてよかった。

まいのこと、ずっと引っかかってた疑問が少し、解けた気がする。

……ありがとう、純一。」


その言葉には、感謝と共に、まいを想う気持ちがさらに強くなった.


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