241 【差し入れ】
部屋に戻ると、まいが荷物の整理をしてくれていた。
ベッドの上に広げた小さなバッグの中に、ひとつひとつ丁寧に身の回りのものを収めていくその姿は、どこか落ち着いていて穏やかだった。
「まい、俺、飯塚さんたちに飲み物買ってくるよ。コーヒーとかでいいかな?」
そう声をかけると、まいは顔を上げて、小さく首をかしげながら答えた。
「お水とかもいいかもね。あと、カフェイン苦手な人もいるかもしれないから、キャディー(お茶系)もあったほうがいいかも」
「なるほど、さすが気が利くなぁ。よし、ちょっと行ってくる」
俺がそう言うと、まいはふわりと微笑んで「いってらっしゃい」と優しく送り出してくれた。
部屋を出て、エレベーターに乗る。
その間にも、今日の予定が頭をよぎる。
今日は俺が最初に運転して、途中からまいにバトンタッチするか――
まい、きっと運転したがるだろうしな。
昨日もまいはしっかり運転してくれたけど、たぶん今日も「運転してみたい」って言うだろうな。
そういうときのまいはちょっと誇らしげで、助手席の俺もなんだか楽しくなるしなぁ
でもそれ以上に、まいが今朝、本当にスッキリした表情をしていたのが嬉しかった。
あんな穏やかな笑顔、久々だったな……なんて思いながら、自然と顔がゆるんでいく。
ホテルを出て少し歩くと、すぐに見覚えのあるコンビニの看板が見えてきた。
朝の静かな通りを歩くのも悪くない。冷たい空気が、気持ちをシャキッとさせてくれる。
店に入ると、まずは飯塚さんたちへの飲み物を手に取る。
コーヒーに、お茶、水。それぞれバランスよく選んで、眠気覚ましのガムやタブレットも忘れずに。
そして、ついでに――というか、ほとんど反射的に、自分たちのおやつもいくつかカゴに入れていた。
チョコレート、ポテトチップス、まいの好きそうなスナック菓子。
つい選びすぎて、カゴの中身がいっぱいになっているのを見て、思わず苦笑い。
「……まいに買いすぎって怒られるかな」
でも、それすらもどこかくすぐったくて、楽しくて。
その瞬間、ふと気づいた。
こうして誰かのことを考えながら何かを選ぶ時間って、案外幸せなものなんだなって――
顔に浮かぶ笑みを抑えることなく、レジに向かった。




