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235 「忍び寄る影、静かに2人の近くに…」


まいは車の前で立ち尽くしていた。


心臓がドクンドクンと鳴っている。


手のひらがじんわりと汗ばんでいるのがわかる。喉が渇いているはずなのに、息をするたびに妙に苦しくて、うまく飲み込めない。


(謙、いない……本当にどこ行っちゃったの……?)


ゆっくりと視線を周囲に巡らせる。けれど、どこを見ても謙の姿はなかった。


(どうして……?)


たしかに「あそこで待ってる」って言ったのに。まいも「わかった」って言ったのに、いなくなっていた……


でも、もしかして——


(私、また変な態度とっちゃった……?)


じわりと胸の奥に嫌な感覚が広がる。


(さっきの私、なんだかおかしかった……)


トイレの鏡に映った自分は、いつもの自分じゃなかった。なんだか妙に不安定で、ぎこちなくて、見ていて痛々しいくらいだった。


それを謙に気づかれた?


(気づかれた……? そりゃそうだよね……)


謙はいつも、まいのちょっとした変化にもすぐ気づく。誤魔化したつもりでも、きっとバレてた。


——あんな風に曖昧に誤魔化して、ヘラヘラ笑って、そのくせどこか上の空で……


謙が「どうした?」って聞いてくれたのに、ちゃんと答えなかった。


謙は、きっと呆れたんだ。


(……嫌われちゃったのかな)


その考えが浮かんだ瞬間、まいの心の奥に黒い染みがじわじわと広がっていく。


(謙、怒ってどこかに行っちゃったのかも……)


車に戻らず、まいを残して。


それが現実になった気がして、ぎゅっと胸が締め付けられる。


まるで空気が薄くなったように、息がしづらい。


(嫌だ……そんなの絶対嫌……!)


まいは自分の腕をぎゅっと抱きしめた。


指先がかすかに震えている。


まるで独りぼっちになったみたいな感覚。


寂しさと後悔と、どうしようもない不安がごちゃ混ぜになって、心がズブズブと沈んでいく。


もう一度、あたりを見回す。


——でも、やっぱり謙はいない。


「……」


目の奥がじんわり熱くなる。


(謙……どこ……?)


思わず呟いた


そう考えながら、視線を落とした瞬間——


「バタン」


車のドアが開く音がした。


まいはびくりと肩を震わせ、ゆっくり振り返った。


そして——

それまでの不安をかき消すような、新たな恐怖が、彼女を襲った



まいの体がビクッと強張る。


(えっ……?)


思わず振り返ると——


男が、二人。


黒いプリウスの助手席と運転席から降りてきた男たち。


そして——まいを、じっと見ている。


その視線が、まるで獲物を見つけたかのように感じた。


(え……なに……?)


心臓がさらに速く打ち始める。


彼らはゆっくりと、しかも確実にまいの方へ向かってくるのがわかった


(違う、これは偶然じゃない……絶対に、私に向かって来てる……!)


足がすくんで動かない。


この場から逃げなきゃいけないと頭では分かっているのに、体が動かない。


呼吸が浅くなり、手のひらに汗が滲む。


——怖い。


——謙、どこ……?


「……っ!」


足が無意識に後ずさる。


男たちは無言のまま、静かに歩み寄ってくる。


まいの背中はもう車にぴたりとくっついていた。


(どうしよう……どうしよう……!)


視界がぐるぐると歪む。


「謙……助けて……謙……」


かすれた声が、震える唇からこぼれ落ちる。


男たちはまいのすぐそばまで近づいてきた。


一歩ずつ、また一歩と……


どうしょう。もう、逃げられない。


「謙、助けて……お願い……」



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