表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/361

227 【まいのために選んだ一品)


まいはフードコートを歩き回りながら、目をキラキラさせて目当てのものを探していた。しかし、いくら探しても目的の“とうもろこし”と“じゃがバター”の姿は見当たらない。


「謙、ないよぉ〜……」


まいは肩を落とし、今にも泣きそうな顔をして俺のほうを見上げた。


「そんなに悲しい顔するなよ」


「だって楽しみにしてたんだもん……」


唇を尖らせて拗ねるまい。まるで子供みたいだ。


「でもさ、他にもいろいろ美味しそうなのあるじゃん。もうちょっとよく見てみなよ」


「だって無いんだもん……」


まいはますます不満げな表情を浮かべ、ふくれっ面のまま足を止めてしまった。よほど楽しみにしていたんだろう。そんな姿を見て、俺は小さくため息をついた。


「わかったよ。俺が何かチョイスしてくるから、ちょっと待ってろ」


「……うん」


まいは渋々と近くのベンチに腰を下ろし、足をぶらぶらさせながら待つことにした。その様子を見ながら、俺は心の中で苦笑いする。


(まいって、こういう時本当に子供みたいに落ち込むんだよな……まあ、それも可愛いからいいけど)


フードコートを見渡しながら、何かまいを喜ばせられるものはないかと探してみる。すると、ある屋台のメニューが目に留まった。


「お、これいいかも」


そこに並んでいたのは、まん丸のジャガイモを丸ごと素揚げにした“ホクホクフライポテト”。ポテトフライはよくあるけど、ジャガイモそのまんまのフライは珍しい。


(これは面白いな……揚げたてならきっと美味いだろうし、まいも気に入るかもな)


俺はカウンターに向かい、店員さんに声をかけた。


「すみません、これください」


「はい、いくつにしますか?」


「2つお願いします」


「かしこまりました。今、揚げたてをお出ししますので、少々お待ちくださいね」


店員さんはにこやかに答えると、奥でカラッと音を立てながら揚がるジャガイモを確認していた。


(じゃがバターではないけど、これはこれでアリだよな。ホクホクで美味そうだし、バターもつけられるし……まいも納得してくれるはず)


そんなことを考えていると、店員さんが揚げたてのポテトをパックに詰めて差し出してくれた。


「お待たせしました。こちら2つですね。お好みでバターやマヨネーズ、ソースをどうぞ」


「ありがとうございます」


俺はパックの中にバターとマヨネーズを入れ、別の小さなパックにソースを注いだ。これならまいも好きな味で食べられるだろう。


(さて、まいは喜んでくれるかな……)


俺はポテトを持ってまいの待つベンチへと歩き出した。まいの反応がちょっと楽しみだった。


ポテトを手に持ち、まいの待つベンチへ向かおうとしたその時だった。


——なんとなく、誰かに見られている気がする。


背中のあたりに微かな視線の圧を感じ、足がふと止まった。周囲をさりげなく見渡してみるが、俺をじっと見ているような人物は見当たらない。買い物をする観光客や、家族連れ、休憩中のドライバーたちが行き交うだけ。


(……気のせいか?)


そう思い直し、再び歩き出した。しかし、数歩進んだところでまた、何かが引っかかるような感覚が背筋に感じた。


再び振り返る。


やはり、特に怪しい人影は見当たらない。


(……疲れてんのかな)


軽く首を振り、気持ちを切り替えた。


「そうだ、カー用品とか少しは置いてあるかな」


ふと別のことを考えながら、まいの不機嫌な顔を思い出した。


(まずはこれをまいに渡して、そのあと少し店内を探してみよう)


そう決めて足早にベンチへと向かうと、まいは案の定、まだ少し拗ねたような表情で待っていた。


「まい、お待たせ!」


俺はポテトのパックを差し出し、少し誇らしげに言った。


「美味そうなの買ってきたよ」


まいは腕を組んでいたが、俺が持ってきたものを見た途端、あからさまに不満そうな顔をした。


「……これは揚げてあるから、違うもん」


「わかったから、とりあえず食べてみなって! 揚げたてだから絶対美味いぞ」


「だってポテトフライじゃん」


まいはまだ納得がいかない様子で、唇を尖らせている。


「でも、考えてみろよ。丸ごとだから表面はカリッとしてるけど、中はホクホクで蒸したのとそんなに変わんないだろ? ほら、一口食べてみ」


渋々とした様子で、まいはパックを受け取り、箸を伸ばした。まん丸のジャガイモをそっとつまみ、二つに割ると、中から湯気がふわっと立ち上る。


その瞬間、まいの表情がぱっと明るくなった。


「謙、これにバター乗せたら……じゃがバターと変わんないかも!」


俺は得意げに笑う。


「だろ?」


まいはさっそくバターを乗せ、熱々のうちに一口かじった。


その途端——まいの顔がほころび、瞳がキラキラと輝き出す。


「……美味しい!」


口の中でホクホクとほどける食感がよほど気に入ったのか、まいはもう一口頬張った。そして、何かを思い出したように立ち上がる。


「謙、ちょっと待ってて! お塩もらってくるね!」


そう言うと、バッグを肩に掛けたまま、まいは軽やかに店のカウンターへ向かって駆け出していった。


その後ろ姿を見送りながら、俺は思う。


(やっぱり、まいは単純だよな……でも、そんなところが可愛いんだよな)


——だが、その時だった。


まいが店に向かうのを見送りながら、ふと背後に再び微かな視線の気配を感じた。


ほんの一瞬、冷たい感覚が背筋を駆け抜ける。


ゆっくりと振り返る。


……やはり、それらしい人物はいない。


人々のざわめきの中に紛れる、無数の視線。だが、そのどこかに確かに俺たちを見つめている目がある——そんな気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ