表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/361

220 【北海道2日目の朝】


朝、目を覚ますと、隣でまいがまだ静かに眠っていた。


すーすーと穏やかな寝息を立て、心地よさそうに布団にくるまっている。その寝顔はどこか幼くて、昨日までのはしゃぎぶりを思うと、なんだか微笑ましい。


起こさないようにそっとベッドを抜け出し、軽く伸びをする。


――やっぱり、まだ少し腰が痛むな。


けれど、昨夜貼った湿布のおかげか、昨日よりはいくらかマシになっている気がする。


ふと、昨夜のまいの様子を思い出した。


本当はもっと甘えたかったのだろう。まいは俺にもたれかかりながら、何度か誘うような仕草を見せていた。けれど、俺の腰の痛みを気にしてか、最後は少し不満そうに唇を尖らせ、それでも諦めきれないようにピタッと俺にくっついてきた。温もりと柔らかな感触を全身で感じながら、やがて安心したように眠りに落ちていった。


やっぱり可愛いなぁ……。


きっと、北海道初日でお互い張り切りすぎたせいもあるのだろう。楽しかった分、疲れもたまっていたに違いない。


俺はそっとまいの髪を撫でながら、改めて今日の予定を思い浮かべた。


今日は朝食を済ませたら、まず湯の川の停留所と近くのホテルへ行ってスタンプを集める。そのあとチェックアウトをして、レンタカーで函館空港へ向かい、最後のスタンプを押せばすべてクリアだ。

スタンプの取りこぼしはないか確認しながら、札幌までのルートを考える。とはいえ、無理に急がず、カーナビに任せてのんびりドライブするのも悪くない。


そんなことを考えながらベットに腰掛けていると、ふと視線を感じた。


ベッドの方を振り向くと、布団の隙間からまいがこちらをじっと覗いていた。

まだ寝ぼけているのか、瞼は重そうで、頬もほんのりと赤い。それでも、目が合うと恥ずかしそうに微笑んだ。


「……おはよぉ〜」


まいは小さく呟きながら、布団に顔を埋めるようにしてもぞもぞと動く。その仕草がなんとも可愛らしく、思わず笑みがこぼれた。


「おはよう。」


ソファに座ったまま声をかけると、布団の隙間から覗いていたまいが、もぞもぞと顔を出した。


「ううん……起きてたのぉ?。」


まいはまだ少し眠たそうな声で答えながら、ゆっくりと上半身を起こす。そして、俺の姿をじっと見つめると、小さく首を傾げた。


「でも、隣にいなかったから、あれ?って思った。」


「それで、布団の間から覗いてたの?」


そう聞くと、まいはくすっと笑いながら頷いた。


「うん。謙、なんか変なことしてないかなぁって思ってね。」


「するわけないでしょ〜。」 そう言いながら、ちょっと意地悪な気分になり、冗談混じりに付け加えた。

「でも、今からしちゃおうかなぁ〜。」


すると、まいは一瞬驚いた顔をしてから、ぷくっと頬を膨らませて


「やだぁ〜!絶対ダメだからねぇ〜!」


そう言って布団をぎゅっと抱きしめるようにして丸くなった。


その仕草を見て思わず吹き出してしまう。


「謙、腰は痛くない?」


少し落ち着いたまいが、心配そうに俺の顔を覗き込む。


「なんとか大丈夫だよ。」


そう答えると、まいはホッとしたように微笑んで


「昨夜は安静にしてたのが良かったのかもなぁ。」


そう答えると、まいは少し考え込むような顔をした後、ふっといたずらっぽく微笑んだ。


「ふ〜ん。でも昨夜、まいが我慢してあげたおかげかもねぇ〜。」


そう言って、じとーっとした目で俺を見てくる。


「……まぁ、それはあるかもなぁ。」


冗談半分にそう認めると、まいは急に不満げに頬を膨らませて、枕をぎゅっと抱きしめた。


突然おどけた表情を作って、舌をぺろっと出しながら


「べぇ〜。」


まるで子どもみたいに、ふざけた顔をしてみせた。


その無邪気な仕草に、朝ののんびりとした空気がいっそう心地よく感じられた。


しばらくしてから


「さて、朝食でも行こうか?」


俺がそう声をかけると、まいは小さく頷きながらも、鏡を覗き込んでいた。


「もうちょっと待ってて。メイクするから。」


そう言って、顔を洗い歯を磨いてからポーチから化粧品を取り出し、器用に手を動かし始める。


俺はふざけて、軽い調子で言ってみた。


「まいは可愛いから、すっぴんでも全然大丈夫じゃん。」


すると、まいはピタッと手を止めて、じとーっと俺を睨んだ。


「謙、黙ってて!これはマナーなんだからね。大人の女性として!」


その口調が思いのほか真剣で、俺は「冗談だったのに……」と心の中で苦笑い。なんだか怒られた気分だ。


仕方なく、俺はソファに腰を下ろし、まいの準備が終わるまでぼんやりと窓の外の景色を眺めることにした。朝の柔らかな日差しが街を照らし、行き交う車がゆっくりと動いているのが見える。


しばらくすると、まいの弾むような声が聞こえてきた。


「謙、終わったよ!かわいくなった?」


そう言って、自信満々の表情で振り向くまい。


俺は思わず笑いながら、いつもの調子で答えた。


「うーん……いつもと変わんないよ。」


その瞬間、まいの顔がふっと曇った。


「……はぁ〜〜ぁ?……」


眉をひそめ、ムッとした表情で俺を見つめる。


やばい。


慌てて俺は手を振りながら補足した。


「違う、そういう意味じゃなくて! いつもと変わらないくらい、まいは素敵だってこと!」


なんとかフォローを入れるも、まいはじーっと俺を見つめたまま、まだ疑いの目を向けている。


「……ふーん?」


口元をとがらせながら、まいはじっくりと俺の表情を探るように見つめてきた。


俺は苦笑しながら、そっと手を差し出した。


「ほら、朝ごはん行こ?」


まいは、ぷいっとそっぽを向いた後、小さく笑って手を取ってくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ