消えた記憶と愛する人の嘘 22 【また明日】
それから俺たちは、特に意味のないくだらない話をして過ごした。
まいは俺の記憶を取り戻そうとするような話題を選ぶわけでもなく、ただ一緒に笑いながら、何気ない時間を楽しんでいた。
「コンビニのスイーツって、なんであんなに美味しいんだろうね?」
「え、でも俺、どれが好きだったっけ?」
「謙はね、プリンとシュークリーム! でも結局、私の分まで食べてたんだから」
「え、マジで?」
他愛もない会話。
でも、そんなささいなやり取りが、なぜか妙に心地よかった。
ふと気づくと、ナースが病室のドアをノックし、優しい笑顔で「そろそろ面会の終わりの時間です」と告げた。
「えっ、もうそんな時間?」
まいが驚いたように時計を見て、少し不満そうに頬を膨らませた。
「なんか、あっという間だったね」
俺も同じ気持ちだった。
「昨日、謙が目を覚ましただけで最高だったけど……」
まいは俺の顔をじっと見つめながら、ふわりと笑う。
「今日はもっと最高だったよ。……チュウもしちゃったしね」
そう言って、悪戯っぽくウインクする。
「……っ!」
一瞬、その言葉を耳にして俺は思わず視線を逸らした。
まいの方が一枚も二枚も上手だ。
「明日も来るからね」
まいはそう言って、ベッドのそばで立ち上がる。
「だから……明日は今日以上に楽しませてね。……約束だよ?」
俺は苦笑いするしかなかった。
「……わかったよ」
まいは満足そうに頷き、バッグを肩にかけると、軽く手を振ってドアへ向かう。
しかし、ドアの前でふと立ち止まると、突然くるりと振り返り、小走りで戻ってきた。
「んっ!」
驚く間もなく、まいの唇がそっと俺の唇に触れた。
ほんの一瞬の、軽いキス。
「バイバイ!」
いたずらっぽく笑いながら、まいは再びくるりと背を向け、今度こそ病室を出て行った。
俺は呆然としたまま、まいの残り香がほんのり漂う空間を見つめる。
……まったく、俺は彼女に振り回されっぱなしだ。
だけど、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……しょうがないな」
俺は小さく笑って、天井を見上げた。
明日もきっと、まいは俺を驚かせるんだろう。
そして、俺はまた彼女に惹かれていくのだろう——
そんな確信にも似た予感が、胸の奥に静かに広がっていった。
また、よかったらしばらくの時間お付き合いよろしくお願いいたします。
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