206 【急遽決まった4人の飲み会】
橘のスマホが小さく振動し、画面を見ると、香からの返信が早々に届いていた。
「今夜大丈夫だよ。純一からなんて珍しいね。なんかあった?」
橘はそれを見て、にやりと笑った。勝ち誇ったような表情で篤志に視線を向ける。
「ほら、俺の勝ちだな」
まるで勝利宣言をするかのような口ぶりに、篤志は悔しそうにスマホを握りしめる。
「ちょっと待ってくださいよ……俺の方はまだ返信が……」
ちらりとスマホを確認するが、メッセージは未読のままだ。
「篤志、大丈夫だから心配するな」
橘はそう言いながら、ゆっくりと香への返信を打ち始めた。
「香、今夜は池袋にでも行こうか? フクロウのとこで、これから1時間後でどうだ?」
送信ボタンを押すと、すぐに既読がつき、数秒後には返事が届いた。
「了解、先に行ってるね」
橘は満足そうにスマホをポケットにしまい、篤志の方を見る。
「俺の方はもう決まったぞ。お前の方はどうなんだ?」
篤志は焦った様子で何度もスマホをチェックするが、まだ返信は来ない。
「くそ……まだか……」
橘はそんな篤志を見て、肩を軽くすくめる。
「まあ、焦るなって。そのうち来るさ」
そう言った矢先、篤志のスマホが小さく振動した。慌てて画面を見ると、ようやく返信が届いていた。
「大丈夫だよ。今、池袋にいるんだけど、こっちに来る?」
「おおっ! きたきた!」
篤志は嬉しそうに返事を打ち始める。
「わかった。池袋に1時間後でいいかな?」
数秒後、再びメッセージが届く。
「うん、そうしたら西武線の改札のとこね」
「了解!」
篤志はホッとしたように深く息をつき、橘に向かって親指を立てる。
「俺もなんとかまとまりました!」
「なら、いっそのこと、4人で飯行くか?」
橘が思いついたように提案すると、篤志は少し驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔になった。
「悪くないですね! じゃあ、彼女にも聞いてみます!」
スマホを手に取り、篤志は急いでメッセージを打ち始める。
橘はそんな篤志を横目に見ながら、ゆっくりと缶コーヒーを飲み干した。
こうして、急遽4人の飲み会が決まったのだった。
4人の再会と、穏やかな夜の始まり
夜の街に柔らかな明かりが灯る中、4人は待ち合わせの居酒屋の前で顔を合わせた。
「篤志くん、久しぶり!」
香が明るい声で手を振ると、篤志は少し照れたように頭をかいた。
「あぁ、香さん、お久しぶりです」
そして、篤志の隣にいた女性が一歩前に出る。
「はじめまして、上野律子です。よろしくお願いします」
落ち着いた雰囲気のある女性だった。柔らかな笑顔が印象的で、礼儀正しく頭を下げる姿はどこか上品さを感じさせる。
香は彼女の姿をじっと見て、にこっと笑った。
「篤志くんの彼女なんだぁ〜。かわいいね」
「えっ、いえ、そんな……」
律子が軽く手を振って謙遜すると、篤志がすぐに否定するように首を横に振る。
「そんなことないっす! 普通です!」
「何言ってるの? こんなに可愛い子と付き合えてるんだから、もっと自信持ちなよ」
香はくすっと笑いながら、まるで弟をからかう姉のような口調で言うと篤志が
「香さん、意外ときついすよねぇ……」
律子が小さく笑うと、篤志はさらに顔を赤くして、橘の方をちらりと見た。
「橘さん、助けてくださいよ……」
「まぁまぁ、いいから行こう」
香が軽く手を叩いて場を締めるように言うと、橘は隣でそのやり取りを見ながら微笑んでいた。
店内に入ると、ほどよい照明の落ち着いた雰囲気が広がっていた。個室へ案内されると、静かでゆったりとした空間が広がる。
「へぇ、いい感じのお店だね」
香が周囲を見渡しながら感心したように言うと、律子が微笑んだ。
「ここ、篤志くんとよく来るんですよ。雰囲気もいいし、料理も美味しくて、お気に入りなんです」
「そうなんだ。確かに、静かで居心地よさそう」
香が椅子に腰を下ろしながら頷くと、橘もメニューを手に取りながら言った。
「篤志、お前が選んだ店なら間違いはなさそうだな」
「ですよね! ここ、何食べてもハズレがないんですよ。香さんと橘さんにも気に入ってもらえたら嬉しいです」
篤志が得意げに言うと、香がクスッと笑う。
「それなら、今夜は篤志くんと律子ちゃんにお任せしちゃおうかな?」
「じゃあ、俺たちがいつも頼んでるおすすめをいくつか注文しますね」
律子が微笑みながらメニューを開くと、橘は「頼んだ」と静かに頷いた。
こうして、4人の賑やかで穏やかな夜が始まった。




