204 【豪華な料理の記録、まいのこだわりの一枚】
テーブルに並んだ色とりどりの料理を前に、まいはさっそくスマホを手に取り、夢中で写真を撮り始めた。
その表情はまるで宝物を見つけたかのように楽しそうで、心なしか目まで輝いて見える。
「謙、お刺身こっちに向けて!」
「はいはい、これでいい?」
俺はまいの指示に従い、皿の向きを調整する。
しかし、まいは画面を覗き込みながら、さらに細かく注文をつけてきた。
「うーん……謙のビールが邪魔。それどかして!」
「はいはい、了解」
俺はグラスを少し横に避ける。
すると、まいはさらに集中した様子で画角を調整しながら、何度もシャッターを切った。
「……あ、謙、ちょっと謙が邪魔。ちょっとどいて」
「俺?……全く、仕方ないなぁ〜」
俺は苦笑しながら席を立ち、まいの視界から外れる。
先ほどまでのしおらしい雰囲気とは打って変わって、いつもの“マイペースでこだわり屋なまい”に戻っているのが微笑ましかった。
「よし!謙、いいよ、座って。めっちゃいい感じに撮れた!」
満足げにスマホをこちらに差し出してくるまい。
画面を覗き込むと、そこには驚くほど鮮やかに映し出された料理の数々があった。
刺身の艶やかな色合い、焼きたてのステーキのジューシーな質感、そして湯気が立ち上る蟹の味噌汁……まるでプロが撮影したかのような仕上がりだ。
「おお、すごいな……本当に美味しそうに撮れてる。なんか、一眼レフで撮ったみたいだな」
思わず感心すると、まいは得意げに微笑んだ。
「何言ってるの?これ、謙が教えてくれたんじゃん!」
「俺?」
一瞬ピンとこなかったが、ふと昔の記憶がよみがえる。
そういえば、机を整理した時、机の中にカメラ雑誌が何冊か入っていたことを思い出した。
まさか、そんなことをまいが覚えていて、実践していたなんて……。
「そうか、俺……そんな趣味があったんだなぁ」
思わずぽつりと呟くと、まいは嬉しそうに頷いた。
「うん、謙って意外と凝り性だったみたいだよ?」
俺の知らない俺の過去を、まいが知っている。
それがなんだかくすぐったくて、だけど少しだけ嬉しくて、俺はビールを一口飲んだ。
至福のディナータイム
「さて、食べようかぁ」
「うん、何から食べようかなぁ〜」
まいは目を輝かせながら、目の前に並ぶ豪華な料理を見渡している。
その姿はまるで子どものようで、俺は思わず微笑んでしまった。
「まいはやっぱりサーモンじゃん!」
「正解!」
まいは嬉しそうに箸を持ち、まずはサーモンを取り皿にのせる。
ふわりとしたオレンジ色の身が、光に照らされてつややかに輝いている。
「俺は……ステーキいっちゃうかなぁ〜」
「うん、たくさん食べよぅ」
まいがサーモンを頬張るのを横目に、俺は焼きたてのステーキをナイフで切り分ける。
しかし、まいが微笑みながら、いつものオーバーリアクションではなく、ぽつりと小さな声で呟いた。
「……美味しい」
その一言に、俺は箸を止めてまいを見る。
いつもなら「おいしーい!」とはしゃぎながら言うところなのに、今日はしっとりとした表情で味わっている。
「謙、お刺身すごく新鮮で美味しいから、早く食べてごらん」
せかされるように、俺はナイフとフォークを置いて、刺身に手を伸ばした。
まずはマグロを一切れ……醤油につけて口に運ぶと、しっとりとした舌触りのあと、濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。
「……ここの魚、すごいなぁ。ビュッフェでこのクオリティなんて信じられない」
「でしょ?どれを食べても本当に美味しいよ」
「これはヤバいな……おかわり確定だわ」
まいはニコッと笑って、「どんどん食べなよ!またもらってくるから」と意気込んでいる。
「うん、じゃあ俺はとりあえずこれを楽しむよ」
俺が食事を続けていると、まいが蟹の脚を手に取り、殻を見つめているのに気づいた。
「謙、これさ……上手く食べられないかも」
「……つまり、俺が剥くってこと?」
「お願い♡」
まいは甘えたように微笑みながら、蟹の脚を差し出してきた。
俺はため息をつきつつも、ハサミを使って丁寧に殻を外し、ぷりっとした身を取り出してまいの皿にのせる。
「ほら、できたぞ」
「わぁ!ありがとう!」
まいは嬉しそうに蟹の身を口に運ぶと、幸せそうな顔で頬を緩めた。
「やっぱり美味しい!」
「まったく……俺のも剥いといてよ」
冗談めかして言うと、まいはいたずらっぽく笑いながら、「いいから、いいから、気にしない!」と軽く手を振る。
そんなやり取りをしながらも、俺はなんだか楽しくなってきて、結局まいの蟹を全部剥いてやることになった。
その後も、まいはオリジナル海鮮丼を作るために、ご飯の上にたっぷりのイクラとホタテ、サーモンをのせてご満悦。
俺も気になっていたセルフの味噌ラーメンを作り、蟹の出汁が効いたスープをすすりながら満足げに頷いた。
「これ、ホテルのビュッフェとは思えないな」
「ねぇ、本当に全部美味しい!」
「正直、もう食べられないくらいだけど……デザートは別腹だよな?」
「俺はもう無理だぁ…」
そう言って、まいは満面の笑みでソフトクリームマシンの方へ向かっていった。
お腹いっぱいになりながらも、楽しい食事。
俺たちは最高のディナータイムを満喫していた。




