203 【海の幸が待つディナービュッフェ】
エレベーターが静かに下降し、やがて1階に到着する。
扉が開くと、目の前にはレストランの入口に続く列ができていた。
「謙、結構混んでるんだねぇ」
まいが少し驚いたように俺を見上げる。
「そうだなぁ〜。宿泊客、結構いるんだなぁ」
周囲を見渡すと、家族連れやカップル、年配の夫婦など、さまざまな客が並んでいた。
それでも、レストランの受付スタッフは手際よく客を案内しており、流れはスムーズだ。
俺たちも1、2分ほど並んでいると、すぐに順番が回ってきた。
「お待たせしました!」
にこやかに声をかけてきたのは、若い女性のスタッフだった。
明るい笑顔で、案内をしながらレストランの説明をしてくれる。
「お飲み物は別料金で飲み放題のプランもございます。また、ビュッフェスタイルになっておりますので、お好きなものを自由にお取りください」
説明を聞きながら、俺たちは奥へと案内されていく。
レストラン内は、まるで市場のような活気に満ちていた。
目の前には広々としたビュッフェカウンターが広がり、その上には豪華な料理がずらりと並んでいる。
「謙、海鮮のところ見た?」
まいが目を輝かせながら、小声で俺に話しかけてきた。
「見たよぉ〜!蟹がいた!」
俺も興奮を抑えきれず、思わず声が弾む。
「すごいよね!あんなに海鮮コーナーが充実してるビュッフェ、初めて見たよぉ〜!」
まいは興奮を隠せず、視線をあちこちに向けている。
新鮮な刺身が美しく並び、大きな蟹が豪快に盛られている。
サーモンやマグロ、ホタテにイクラ……。
海鮮好きにはたまらないラインナップだ。
「ここ、何でも揃ってるぞぉ〜!すごいなぁ〜!」
まいのワクワクした様子が伝わってきて、俺まで嬉しくなってくる。
テーブルへ向かう途中、肉料理やデザートコーナーの豪華さにも驚かされる。
美しく盛り付けられたローストビーフ、じゅうじゅうと焼かれるステーキの香ばしい匂い……。
チョコレートフォンデュに、色とりどりのフルーツやケーキも並んでいる。
「どれから食べようか、迷うなぁ〜!」
まいは楽しそうに笑いながら、テーブルへ向かって歩いていく。
俺たちは、これから始まる贅沢なディナーに胸を躍らせながら、席に着いた。
少しすると、先ほどの女性スタッフがテーブルにやってきた。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「飲み放題で、生ビールを2つお願いします」
「かしこまりました。ご用意しておきますので、お料理はご自由にお召し上がりください」
スタッフはにこやかに微笑みながら、一礼して戻っていった。
まいの目は、まるで宝物を見つけた子供のように輝いている。
「謙!行こぉ!」
弾む声とともに、まいは身を乗り出すように立ち上がる。
その気合いの入りように、思わず俺も笑ってしまう。
「まい、たくさん食べようなぁ」
「うん!」
俺たちはまず、海鮮コーナーへと向かった。
ビュッフェの中央には、巨大な氷のプレートが置かれ、その上に新鮮な魚介類が豪快に並んでいる。
近くで見ると、その種類の多さに圧倒されるほどだ。
「どれを選べばいいんだ……」
俺は目の前の海の幸に釘付けになりながら、思わずつぶやく。
「まい、俺はとりあえず刺し盛りみたいな感じでチョイスするけど……」
「じゃあ私は、お肉とか何か気になったのを持ってくるね!」
そう言って、俺たちは二手に分かれて料理を選び始めた。
刺身のコーナーに並ぶと、改めてその豊富さに驚かされる。
マグロ、サーモン、ハマチ、タイ、ブリ……貝類もホタテやアワビ、赤貝、ツブ貝まで揃っている。
さらに、いくらが山盛りになったボウルまで用意されていた。
「これ、まいが好きなやつばっかりじゃん……」
思わず苦笑しながら、まいの分も考えて慎重に選んでいく。
一枚一枚、美しく並べられた刺身を見ていると、全部取りたくなるが、まずはバランスを考えて盛り付けることにした。
刺し盛りの準備ができたところで、ふと横を見ると、貝類の焼き物コーナーが目に入る。
香ばしい匂いを放ちながら、ホタテや蛤が炭火の上でじっくりと焼かれている。
ぷっくりと膨らんだホタテが食欲をそそる。
「これも絶対に外せないな……」
そう思いながら、ホタテと蛤の焼き物もお皿に追加した。
刺身コーナーを離れると、視線の先に「オリジナル海鮮丼コーナー」という魅力的なエリアを発見
好きな具材を自由に盛り付け、自分だけの海鮮丼が作れるらしい。
「これは後でじっくりやるとして……」
俺は心の中で計画を立て、今は我慢することにした。
さらに進むと、なんとラーメンコーナーまである。
ここでは自分で湯通しをして、好きなトッピングを乗せるスタイルになっているようだ。
「ラーメンもいいなぁ……でもさすがに今は無理か……」
食べたいものが多すぎて、何を優先するか真剣に悩んでしまう。
そんな中、見逃せなかったのが巨大な蟹の山だった。
特大サイズのズワイガニとタラバガニが、まるで取り放題のように並んでいる。
「これはいくしかないだろ……」
俺は夢中で蟹を皿に盛り付けた。
正直、こんなに食べられるのか少し不安になったが、せっかくの機会だ。
後悔のないようにたっぷりと確保した。
そして最後に、どうしても気になった「蟹の味噌汁」を2杯よそい、その上からたっぷりの蟹味噌を追加。
贅沢すぎるほど濃厚な香りが立ち上る。
「よし、これで第一陣は完璧だ」
俺は慎重に料理を持ち、テーブルへと戻った。
まいはまだ戻ってきていない。
「さて、まいは何を持ってくるのか……」
彼の楽しそうな姿を思い浮かべながら、俺は料理を並べる手を止め、ふっと笑みをこぼした。
テーブルに座り、料理を眺めながらまいの帰りを待っていると、先ほどの女性スタッフがビールを運んできた。
「飲み物はあそこのカウンタでテーブルナンバーを伝えていただければ、おかわりできますからね。何かわからないことがあれば、いつでもお尋ねください。ごゆっくりお楽しみくださいね」
彼女はにこやかに微笑丁寧な一礼とともに戻っていった。
その直後、まいが満面の笑みを浮かべながら戻ってきた。
「謙、すごいよ、やっぱり!」
まいは、目を輝かせながら、お皿をテーブルに並べ始める。
「ステーキ、目の前で焼いてくれたんだよ!めっちゃジューシーで美味しそうだった!」
「へぇ、そんなサービスまであるんだ」
「しかもジンギスカンまであったの!ラム肉が柔らかそうで香ばしい香りがすごかったよ!」
まいは興奮気味に話しながら、両手に持ったお皿を慎重にテーブルに並べていく。
焼き立てのステーキは、ほんのりピンク色のミディアムレアに仕上がり、肉汁がじんわりと表面に浮かんでいる。
ジンギスカンは鉄板の上でしっかり焼かれ、野菜と絡み合いながら食欲をそそる香ばしい匂いを放っていた。
「まい、とりあえず座ってビール飲もうよ」
俺がグラスを手に取りながら言うと、まいは一瞬だけ考え込んだ様子を見せ、
「ちょっと待って!サラダだけ持ってくる!」
と言い残し、再びビュッフェエリアへと駆け出していった。
その元気いっぱいの様子に、俺は思わず笑ってしまう。
本当に、まいは食事を全力で楽しむタイプなんだな、と改めて思う。
少しして、まいが戻ってきた。
だが、持ってきたのはサラダだけではなかった。
「えへへ、ちょっと追加しちゃった」
トレイの上には、フレッシュな野菜がたっぷりのサラダに加え、焼きとうもろこしとホクホクのじゃがバターが並んでいた。
「とうもろこし、すごく甘そうだったし、じゃがバターも見たら食べたくなっちゃって……」
まいは少し照れくさそうに笑いながら、トレイをテーブルに置く。
黄金色に焼き上げられたとうもろこしは、バターの照りが美しく、香ばしい香りがふわりと漂う。
じゃがいもはナイフを入れた瞬間にほくほくと湯気が立ち上り、その上にはたっぷりのバターと塩辛。
「まい……これ、2人で食べ切れるのか?」
俺は目の前の料理の量を見て、少し不安になった。
「大丈夫!謙となら絶対食べられるよ!」
まいは自信満々にそう言って、すぐにビールのグラスを持ち上げた。
「それじゃ、まずは乾杯しよっか!」
俺たちはグラスを軽く合わせ、笑顔で乾杯した。
その瞬間、この贅沢なビュッフェを心ゆくまで楽しもうと、改めて思った。




