200 【五稜郭タワーの賑わいと、最後の目的地へ】
五稜郭タワーの自動ドアが開き、2人は中へと足を踏み入れた。
「うわ、結構混んでるな……。」
謙が周囲を見渡しながら驚いた様子で呟く。観光客や家族連れ、カップルなどで賑わい、タワーのロビーは活気にあふれていた。
「ほんとだぁ。あ、見て!コナンの等身大パネルがある!」
まいは目を輝かせながら指をさす。その隣にはグッズ販売コーナーもあり、多くの人が立ち寄っていた。
「結構いろんなの売ってるな。後で時間あったら見てみるか。」
「うん!」
そんな会話をしながら、2人はタワー内のスタンプスポットを探し、すぐに見つけることができた。
「よし、スタンプゲット!」
まいは嬉しそうに手帳を見せる。
「さて、まい。上に上がるか? それとも、このまま五稜郭に向かうか?」
謙が尋ねると、まいはく少し考え込むように視線を上に向けた。
「どうしようかなぁ……。」
「んー、そうしたら、とりあえず五稜郭のスタンプをゲットして、時間が大丈夫ならタワーに戻って登ろうか?」
「なるほど、それがいいかもな。」
2人は顔を見合わせ、頷き合った。
「じゃあ、そうしよう!」
タワーをあとにし、外へ出て、少し歩くと五稜郭の広がる風景がすぐ目に入った。
「もうすぐだね!」
まいは楽しそうに足取りを軽くする。その隣で謙も微笑みながら歩を進めた。
「謙、今日はこれがラスト?」
まいが歩きながら尋ねると、謙は小さく首を振った。
「違うよ。あともう一つある。」
「えぇ?どこ?」
「ラストは函館山だよ。きっと今夜は夜景が綺麗だろうな。まいが『行きたい』って一番最初に言った場所だからなぁ……ここだけは絶対外せないかなって。」
謙が優しくそう言うと、まいは立ち止まり、彼をじっと見つめた。
「……謙……ありがとう……。」
彼女の声は、じんわりと心に染み入るような響きだった。
「謙って、本当に優しいねぇ……。」
そう言いながら、まいはそっと謙の腕に寄り添った。
「よし、じゃあその前にまずは五稜郭、行くか!」
「うん!」
2人は再び歩き出した。函館の澄んだ空の下、2人の心には同じ想いが宿っていた。
五稜郭の美しさと、コナンからの贈り物
そんな話をしながら、2人はついに五稜郭へと到着した。
「謙、すごく綺麗だね……!」
まいが感嘆の声を上げながら、目の前に広がる景色をじっと見つめる。星形の堀に囲まれた五稜郭の緑は、太陽の光を浴びて鮮やかに映えている。
「あぁ……。もう少し後なら、ここ一面に桜が咲いて、もっと素晴らしい景色が見れたみたいだなぁ。」
謙は少し惜しむように言いながら、それでも今の景色をしっかりと目に焼き付けていた。
2人は五稜郭へと続く橋を渡りながら、スタンプスポットを目指す。
「まい、このスタンプラリーのおかげで、函館を急ぎ足だけど無駄なく巡れてるな。」
「うん、そうだねぇ……。こうやって色んなところをまわるの、すごく楽しいね。」
まいは台紙を見つめながら微笑んだ。
「せわしなく感じることもあるけど、でも無駄な時間を過ごすことなく、こうして充実した旅になってるよな。まいと一緒に歩きながら、たくさん話ができるし……。」
謙が優しくそう言うと、まいはふと立ち止まり、彼の顔を見つめた。
「……謙、これもコナンのプレゼントだね。私たちのために……。」
まいは目を輝かせながら、ぎゅっとスタンプの
台紙を抱きしめる。
「確かに、そうかもな。」
謙が小さく笑うと、まいも嬉しそうに微笑み、再び歩き出した。
五稜郭の風が、そっと2人の間を吹き抜けていった。
無事に五稜郭のスタンプもゲットし、満足そうに歩き出した2人。
ふと、謙が思い出したように尋ねた。
「まい、そういえばホテルってどこなの?」
その言葉に、まいはピタッと足を止めた。
「えぇ? 謙、調べてないのぉ〜?」
「うん、まいに任せてたから……」
「……」
2人の間に、一瞬沈黙が流れる。
まいの表情が、じわじわと不機嫌モードに変わっていった。
「もう! そういうとこだよ、謙は! なんでチェックしておかないの?!」
「だって、宿の手配はまいの担当だったし……」
「いやいや、私が決めたってだけで、謙もちゃんと確認するべきでしょ!?」
ぷんぷんと怒るまいに、謙は思わず吹き出した。
「……なんで笑ってるのよぉ〜! 謙、ちょっとは反省してるの!?」
「いや、さっきまでめっちゃいい雰囲気だったのに、急にこんな感じになるのが面白くてさ……」
「まったくもう!」
まいは怒ったふりをしているが、どこか微笑ましさも混じっている。
謙も「ごめん、ごめん」と軽く謝りながら、和やかな空気が戻るのを感じていた。
「で、ホテルはどこなの?」
「えっとね、住所は……」
まいがスマホを確認しながら、ホテルの場所を伝える。
だが、その瞬間、謙の顔色が変わった。
「やばぁ……失敗したぁ……」
「えっ? どうしたの?」
まいが不安そうに謙の顔をのぞき込む。
「俺、ホテルが駅の近くだと思い込んでたんだけど……違った。ここからすぐの場所らしい」
「……それの何が問題なの?」
「荷物、函館駅のコインロッカーに置いてきちゃったんだよ。だから、一回駅に戻らないと……」
謙は申し訳なさそうに頭をかいた。
しかし、次の瞬間——
「ぷっ……あははっ!」
まいは、突然吹き出した。
「えぇ? ちょ、何笑ってるの?」
「だってぇ、謙がすっごく申し訳なさそうな顔するから〜! そんなの全然大したことないじゃん!」
「いや、でもさ……」
「時間あるんだから、のんびり戻ればいいじゃん。大丈夫、大丈夫!」
まいは朗らかに笑いながら、謙の腕を軽く叩いた。
その笑顔に、謙は思わず微笑んでしまう。
「……まいって、ほんと前向きだよな」
「謙がネガティブすぎるだけ!」
「う……否定できない……」
2人は顔を見合わせ、また笑い合った。
謙のちょっとしたミスも、まいと一緒なら楽しい思い出のひとつになる——
そんなことを感じながら、2人は函館駅へと向かって歩き出した。
「時間、もったいないしタクシーで駅まで行こうか?」
謙がそう提案すると、まいもすぐに頷いた。
「うん、それがいいね!」
2人はタクシーを拾い、函館駅へと向かう。
車内では、これからの流れを確認するように話し合った。
「もうチェックイン、大丈夫だよなぁ。4時回ったもんな」
謙が時計を確認しながら言うと、まいもスマホを見ながら頷く。
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、駅に着いたらそのままホテルに向かってもらおうか。そのほうがスムーズだし、楽だよな」
「うん、その方がいいね」
すると、謙がふと思い立ち、運転手に声をかけた。
「すみません、駅に着いたら少し待っててもらえますか? 荷物を取ったら、そのままホテルまでお願いしたいんですけど……」
「大丈夫ですよ。ホテルはどちらですか?」
「湯の川にある『海と灯』です」
「あぁ、わかりました。駅で待ってますから、ゆっくりでいいですよ」
「ありがとうございます!」
謙が丁寧にお礼を言うと、運転手は軽く頷いた。
そんなやり取りをしている間に、タクシーは函館駅に到着した。
ドアが開き、2人は素早く車を降りる。
謙は振り返って運転手に声をかけた。
「すぐ戻りますので、よろしくお願いします!」
「はい、わかりました」
運転手が穏やかに返事をすると、謙とまいは駅構内へと駆け出した。
「急ごう、まい」
「そんなに慌てなくても……」
まいはクスッと笑いながら、謙の横を並んで歩く。
コインロッカーに到着し、素早く荷物を取り出す謙。
まいはそんな彼の姿を見つめながら、少し微笑んだ。
「謙? そんなに急がなくても大丈夫だよ?」
「いや、なんとなくな……。ホテルに行って落ち着いたら、函館山に行く時間もちゃんと考えたくて」
そう言いながら、謙は荷物を抱え直し、再びまいの方を振り返る。
まいは何も言わずに、小さく頷いた。
——こんな風に、一つひとつをしっかり考えてくれる。
口には出さないけれど、その優しさが伝わってくる。
「じゃあ、戻ろっか」
「うん!」
2人は荷物を持ち、再びタクシーの待つ駅前へと駆け出した。




