表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/361

199 【心からの楽しさ、そして溢れる想い】



「まい、路面電車に乗ったことってある?」


ふとした思いつきのように謙が尋ねると、まいは少し考え込んだ。


「うーん、小さい頃に王子あたりで乗ったことあるよ。でも、それ以来かな……どうして?」


「そっか。ちょっと路面電車に乗ろうかなって思ってさ。」


謙は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる。


「この坂を下って、少し歩けば停留所があるみたいなんだ。そこから五稜郭の近くまで行けるみたいでさ。タクシーより風情があっていいかなって思ったんだよね。」


まいの目が輝く。


「うん!決定!そうしよう!」


彼女の返事を聞いて、謙も満足そうに頷いた。


二人は並んで坂を下り、停留所へと向かう。風が心地よく吹き抜け、どこか懐かしい気分になる。


すると、背後から「ガタン、ゴトン」と線路を伝って響く音が近づいてきた。


振り返ると、路面電車がすぐそこまで迫っている。


「まい、走るぞ!」


「えぇ!?いきなり~!?」


驚きながらも、まいは謙に引っ張られるように駆け出した。


二人は全力で停留所へ向かって走る。


足音が響き、息が上がる。でも、どこか楽しい。まるで子供の頃に戻ったような気持ちだった。


何とか間に合い、滑り込むように電車へと乗り込む。


扉が閉まり、ほっとした瞬間、二人はゼイゼイと肩で息をする。


「ぜぇ……はぁ……ギリギリだった……。」


「もう……突然すぎるよ……!」


言葉とは裏腹に、まいはクスクスと笑いながら謙を見上げた。


謙も同じように、楽しそうな目をしてまいを見つめ返す。


電車の揺れに身を任せながら、二人は自然と笑い合っていた。


路面電車に揺られて、函館の街を眺めながら


函館の繁華街を、路面電車はゆっくりと走り抜けていく。


車窓の向こうには、レトロな建物や活気あふれる商店街が広がり、昼下がりの街は穏やかな時間の流れを感じさせた。


まいは窓の外を眺めながら、ふとつぶやく。


「謙、なんかいいね、この感じ。」


謙はまいの言葉に頷き、車窓の景色に目を向けた。


「そうだな。都内と違って、時間がゆっくり流れてる感じがする。なんていうか、懐かしいような感覚になるな。」


まいは小さく微笑んだ。


「あっ、市場のあたりだよ。」


窓の向こうには、活気ある市場の風景が広がっていた。新鮮な魚介類を並べる店、観光客や地元の人々が行き交う姿が目に入る。


「本当だ。あの店、また来ような。」


謙が言うと、まいは嬉しそうに頷いた。


「うん、絶対また来ようね。」


まいは楽しげな表情で謙を見つめ、その視線を再び窓の外へと移した。


「ねぇ、謙。どこで降りるの?」


「五稜郭公園前かな。まだ少しあるから大丈夫だよ。」


そう言いながら、謙はスマホを取り出し、停留所の位置を確認する。


電車は何駅かを通過し、心地よい揺れとともにアナウンスが流れた。


「次は、五稜郭公園前~、五稜郭公園前です。」


謙が軽くまいの肩を叩く。


「まい、降りるぞ。」


「うん、わかった!」


二人は立ち上がり、ゆっくりと停車する電車の中で、次の目的地に向かう準備をした。



路面電車を降りた二人は、目的地の確認をしていた。


すると、ふと謙が向かいの建物を指さす。


「まい!あのデパートもスタンプポイントになってるぞ。」


「えぇ?デパートの中?」


まいは驚いて目を丸くする。


「そうみたいだ。とりあえず、あそこから行って五稜郭に向かうか?」


「了解!じゃあ、向こうに渡ろうよ。」


「そうだな。」


二人は信号が青に変わるのを待ち、横断歩道を渡ってデパート「丸井」の中へと入っていった。


エスカレーターでスタンプポイントのある階へと上がり、難なくスタンプをゲット。


「やった!まさかデパートの中にあるなんて思わなかったから、嬉しい!」


まいは予定外の発見に目を輝かせ、無邪気な笑顔を見せた。


謙もそんな彼女の姿を微笑ましく思いながら、軽く頷く。


デパートを出ると、五稜郭へと続く道が目の前に広がっていた。


「ここからは少し距離があるけど、散歩にはちょうどいいな。」


謙がそう言うと、まいは自然と彼の腕に手を添えた。


「じゃあ、のんびり歩こうよ!」


まいの声は弾んでいて、その瞳には嬉しさがにじんでいた。


この旅を心から楽しんでいるのはもちろん、それ以上に――こうして謙と一緒にいられることが、まいにとって何より嬉しいことなのかもしれない。


まいは、腕に軽く力を込めながら、あれこれと他愛もない話をしてきたが、急にしおらしく話し始めた。


「なんか、私……こんなに楽しい旅行、初めてかも。」


ふいにまいが呟いた。その声はどこか感慨深く、しみじみとした響きを持っていた。


「まい、大袈裟だよぉ。朝からずっとバタバタしてただけじゃん。」


謙は軽く笑いながら返した。今までバカみたいな話をしてきたからだ。


まいは小さく首を振る。


「違うの……全然違う……今まで味わったことないくらい、すっごく楽しいの……。」


急にまいからのその言葉に、俺の胸の奥がじんわりと温かくなった。


「まい、俺もそう感じてるよ。」


そう言いながら、謙はまいに優しく呟いた。


「今日はまいの魅力を、いろんなところで見て感じてた。ちょっとした仕草とか、汗をかきながらも爽やかに笑う顔とか……すごく、いいなって。」


「……謙のバカ!」


まいは恥ずかしそうに顔を赤らめ、照れ隠しのように軽く謙の肩を叩いた。


「そんなこと言われたら、恥ずかしいじゃん……。」


そう言いながらも、彼女の唇には微笑みが浮かんでいた。


「まい……今まで、いろいろ苦労や心配ばかりかけて、すまなかったなぁ。」


謙が静かにそう告げると、まいはふっと息を呑んだ。


「謙……やめてよぉ。そんなこと言われたら、泣いちゃいそうだよ……。」


「ごめん、ごめん。ただ、素直な気持ちを伝えたくてさ。」


「もう、バカ……涙が出たら謙のせいだからね……。」


まいはそう言いながら、ぎゅっと謙の腕にしがみついてきた。その細い腕から伝わる温もりに、謙は彼女の気持ちを強く感じた。


「まい、見えてきたぞ。五稜郭タワー。」


謙が前を指さすと、まいも視線を向ける。


「本当だぁ!」


「タワーから行こうか?」


「うん、謙の言うとおりにね。」


まいの瞳は輝き、手を繋ぐ力が少しだけ強くなった。その仕草に、謙はそっと微笑んだ。


この旅は特別なものになる。そう確信しながら、二人は五稜郭タワーへと歩き出した。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ