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192 「函館グルメ満喫!まいの食欲&食レポ全開モード!」


市場を歩いていると、まいが急に足を止めた。

店の前で立ち止まり、ガラス越しに店内の様子をじっと伺っている。


「謙、ここ!」


まいは指をさしながら、興奮気味に俺を振り返った。


「ネットでも評判よかったし、並ぶって書いてあったんだけど……今ならすぐ座れそう!ここでいいよね!」


いや、それは「いいよね?」というより「ここに決定!」って言ってるようなもんだろ。

まいの中ではすでに答えが出ているらしい。


「まいがいいと思ったなら——」


そう言いかけた瞬間、まいはすでに店の中へと勢いよく入っていった。

俺の意見、完全に無視されてるじゃん……。

苦笑いしながら、俺も後に続いた。



店内は明るく、木の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気だ。

観光客向けの店らしく、壁には芸能人のサインや写真がたくさん飾られている。


「いらっしゃいませ!」


店員さんが笑顔で迎えてくれ、俺たちはすぐに席へ案内された。


「お水とお茶はセルフなので、あちらからどうぞ。ご注文が決まりましたらお声がけくださいね。」


そう説明を受け、店員さんはカウンターへ戻っていった。


「じゃあ、お茶取ってくる。」


俺は立ち上がり、セルフコーナーで湯呑みにお茶を注ぐ。

ふと振り返ると、まいは楽しそうに微笑みながらメニューと睨めっこしていた。

その姿を見て、自然と笑みがこぼれる。


まだ着いたばかりだけど、来てよかった。心からそう思えた。




席に戻ると、まいがすかさず俺に話しかける。


「謙、何食べる?」


「ちょっと待って、まだメニュー見てないし。」


「うーん……とりあえず、ビールとイカでも頼んで、それから丼にしないか?」


そう提案すると、まいの目がキラリと光った。


「うん!まずビールからいこう!」


次の瞬間——


「すみませーん!生ビール2つと、活イカくださーい!」


店員さんが来る前に、まいは勢いよく手を上げ、オーダーを済ませてしまった。


「……おぉ、早っ!」


俺が呆気に取られている間に、すぐにビールが運ばれてきた。

グラスには細かい泡が立ち、冷えたジョッキからうっすらと水滴が落ちる。


「じゃあ、楽しもうな。」


俺がグラスを掲げると、まいも満面の笑みで応じた。


「うん!謙もね!」


「乾杯!」


ジョッキを軽くぶつけ、グッと喉を潤す。

昼間のビールの美味さに、思わず目を細める。


そんな中

まいは急にしおらしくなった。

俺はあれって思ったので


「まい、どうした?急に」


「謙ね、言ってなかったかもしれないけど、私コナン大好きだったんだぁ〜。」


まいは嬉しそうに目を輝かせながら言った。


「小さい頃からずーっと見てたんだよ。アニメも映画も毎年欠かさずね。」


「へぇ、そうなんだ。記憶をなくす前の俺は、それ知ってたのかな?」


「ううん、多分言ってないと思う。」


まいは少し首をかしげながら考え込む。


「それでね、新しいコナンの映画には絶対行こうと思ってたんだぁ。一人でも……。」


「でも、行かなかったの?」


「……うん。」


まいの声が少し小さくなる。


「行かなかったの……っていうより、行けなかった……。」


「どうして?」


まいは言葉を選ぶように、少し下を向いた。

さっきまでの楽しそうな表情とはガラリと変わっている。


「謙が事故に遭って、意識不明だって聞いたとき……。」


まいの手がぎゅっと膝の上で握りしめられる。


「自分がどうしていいかわからなくなったんだ……。毎日不安で、怖くて……。謙が目を覚ますかどうかもわからないって言われて、そんな状態で映画なんて見ようなんて思えなかった……。」


まいの声が震えていた。


「まい……ごめんな。俺のせいで……。」


「違うの。謙のせいじゃないから……!」


まいは勢いよく顔を上げて、強く首を振る。


「でもね、さっきコナンのスタンプラリーを見つけたとき、本当にびっくりしちゃった。」


まいは少し微笑んで続ける。


「なんかね、映画に行かなくてよかったって、正直思ったんだ。」


「どうして?」


「もし行ってたら、こんな風に謙と一緒にコナンの話しながら楽しめなかったかもしれないって思ったの。」


まいは少し照れくさそうに肩をすくめる。


「だから……これはコナンからのサプライズかなって思っちゃった。バカみたいでしょ?」


「そうは思わないよ。」


俺はまいの瞳を見つめながら言う。


「まい……俺のこと、ずっと心配してくれてたんだな。本当にありがとう。」


「……うん。」


まいはそっと微笑みながら、ぎゅっと握った手を少しだけ緩めた。


「コナン、全部回るか?」


俺が言うと、まいの顔がパッと明るくなった。


「うん!」


「それから、帰ったら映画も見よう。」


「うん!謙と一緒に見れるの、すっごく楽しみ!函館が舞台だからね」


「よし、決まりだな。」


俺はまいの頭を優しくポンと叩き、まいは嬉しそうに笑った。


そんな話をしていると店員さんが活イカを持って来てくれた。


お待たせしました、生姜醤油でしょうがたっぷりでだべて下さいね

その方が美味しいと思いますよ


「ありがとう。」


「謙、このイカすごい!なんか宇宙人みたい!」


まいは目を輝かせながら、皿の上でまだ動いているイカを指さした。


その表現に、思わず吹き出してしまう。


「まい、面白すぎ!」


「だってそう見えるじゃん!」


「……まあ、見えなくもないけど。でも、そんなに大きな声で言わなくてもいいだろ。」


俺が苦笑すると、先ほどのコナンの時とは別人の様にまいはいたずらっぽい笑みを浮かべて、堂々と言い放った。


「旅は書き捨てって言うでしょ!だからいいの!楽しければね!」


確かに、一理ある。

その自由な発想と楽しさ優先の考え方に、思わず納得してしまった。


そんなやりとりを聞いていた店員さんも、くすくすと笑っている。



早速イカを口に運ぶと——


「……っ!!」


まいの目がまんまるに見開かれた。


「沼津で食べたイカも美味しかったけど、ここのはもっとすごい!謙も早く食べなよぉ〜!」


「確かに……このコリコリ感、全然違うな。めちゃくちゃうまい!」


俺も噛むたびに広がる甘みと弾力に感動しながら、ビールをぐいっと飲んだ。


「これは間違いない![


「うん」


ジョッキを置き、メニューを開くと、一つ気になるものが目に入る。


「選べる5種丼……AとBがあるのか。」


Aは好きな海鮮を選べるオリジナル丼。

Bは少し値段が張るが、高級食材が選べる豪華版だ。


「俺はやっぱりB丼にするかな。」


「私ももう決めてたの!B丼にするって!」


「じゃあ、頼むか。」


俺が店員さんを呼び、B丼を二つ注文。

それぞれ好きな海鮮を選び、店員さんはカウンターへと戻っていった。



しばらくすると、店員さんが再び戻ってきた。

手には——


「ウニ?」


俺たちは思わず顔を見合わせる。


「えっと……うち、ウニ頼んでませんけど?」


まいが首をかしげると、店員さんはニコッと笑いながら答えた。


「いえ、これは店長からのサービスです。」


「えっ、なんで?」


驚くまいに、店員さんは意味深に微笑んだ。


「店長、後から来ると思いますから大丈夫です。とにかく、どうぞ召し上がってください。」


そう言って去っていった。


「……なにこれ、めっちゃラッキーじゃん!」


まいはニヤリと笑い、俺に視線を送る。


「いただいちゃおうか?」


「そうだな。」


まいは嬉しそうに、少し大きめな声で言った。


「いただきまーす!」


俺も続いて、「いただきます」と手を合わせる。




箸でウニをつまみ、口へ運ぶ。


——なにこれ。


口の中でふわっと溶け、濃厚な甘みが一気に広がる。

これまで食べてきたウニとは、明らかにレベルが違う。


「何これぇ〜……これ、絶対ウニじゃない!」


まいが驚いた顔で言う。


「いや、まい、それ絶対ウニだから。」


「違う!こんなウニ食べたことないよ!美味しすぎる!この店、罪だよ!」


「何?罪って?」


「だって、もう他のウニ食べれないじゃん……!」


その時、厨房の方から笑い声が聞こえ、店長らしき男性が歩いてきた。


「はじめまして。今日はありがとうございます。」


店長が改まって挨拶してきたので、俺は慌てて背筋を伸ばす。


「すみません、こんな豪華なウニをご馳走していただいて……。」


「いえいえ、中で聞いていてね。奥さん、すごく明るくて楽しい人だなぁと思って、奥さんの食レポ、イカの他にも聞きたくなりまして、それでなんかウニも食べてもらいたくなったんです。」


「奥さん!?」


俺とまいは同時に反応して見合わせる、


店長は気にせず笑って続けた。


「イカの感想、“宇宙人”って最高でしたよ。ウニの感想も期待してたんですけど、やっぱり面白い反応でしたね。」


「ほらね、謙!聞いたぁ〜私の表現力、すごいでしょ?」


まいは得意げに胸を張り、腕を組んで俺を見下ろしてきた。


「……それ、違うと思うけどなぁ。」


なんだかよくわからないけど、店長もまいも楽しそうに笑っている。


つられて、俺も笑った。


「海鮮丼、もう少しでお出しできますので、楽しみにしててくださいね!」


店長はそう言って、にこやかに厨房へ戻っていった。


まいはニヤニヤしながら、


「謙、あの人、私のこと奥さんだって…

困っちゃうなぁ〜どうしょう〜

やっぱりそう見えるのかなぁ、私たち…」


「そうみえるのかもなぁ〜」


まいは嬉しそうにな顔をして、ウニの余韻にも浸っている。


やっぱりこの旅、楽しくなりそうだ。


俺はビールを一口飲みながら、改めてそう思った。



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