188 第2章 北海道編 「2人の楽しい北海道」
「そうだ、函館は夜の食事付きにしたんだけど、札幌はやっぱり外食かなと思って、食事は付けなかったんだけど……大丈夫かなぁ?」
まいが少し不安そうな顔をしながら、俺に問いかける。
「問題ないよ。札幌なら何でもあるだろうし、まいの食べたいものでいいよ」
「うん、そうしたらリサーチしとくね!」
まいは嬉しそうにスマホを取り出し、どこか美味しそうな店がないか探し始めた。
「富良野は食事付きにしたよ」
「その方がいいよなぁ。このプラン見ても観光メインっぽいし、最終日はホテルでゆっくりしたいしな」
俺がそう言った瞬間——
まいの動きが止まった。
そして、じぃっと俺の顔を覗き込んでくる。
しかも、なんか疑いの眼差し……?
「……な、何?」
「ん〜ん……怪しい……」
「は? 何が?」
「絶対!」
「な、何がぁ?」
「謙、また何か考えてるでしょぉ〜?」
「いやいや、何も考えてないけど?」
「絶対そうだ!」
「だから、何がだよ!」
「最終日、エッチなことしようと思ってるんでしょぉ〜?」
「はぁっ!? なんでそうなるんだよ!? 俺、今、何も変なこと言ってないだろ?」
「だって〜、『ホテルでゆっくりし•た•い•』って言ったじゃん」
まいは腕を組みながらニヤリと俺を見つめている。
「まい……まさか、それでそういう解釈になったの?」
「うん!」
即答すぎる。
「いや、違うから! 普通に疲れてるだろうし、最後くらいのんびりしようって意味で——」
「怪しいもんだ! 最近の謙、エッチなことばっかり考えてるみたいだしなぁ〜」
「な、なんでそうなるんだよ!?」
「じゃあ、私とエッチしたくないの?」
「……え?」
いきなりの直球すぎる質問に、俺は言葉を失った。
「そんなこと……ないけど……」
すると、まいがむすっとした顔になって、じとーっと俺を睨んでくる。
「“そんなことない”ってことは、別に私としなくてもいいんだ?」
「いやいやいや! そんなこと言ってないし!」
「じゃあ、どうなの?」
「……まいとなら……したいよぉ……」
俺が観念したようにそう言うと——
「やっぱりねぇ〜! 謙、素直になりなさ〜い! いっぱい可愛がってあげるからねぇ?」
まいが得意げな顔で俺の肩をポンポンと叩いてきた。
——完全にのせられた……
「なんか、よくわからないけど……」
気づけば俺は笑っていた。
まいも、それにつられるようにケラケラと楽しそうに笑い出す。
結局、俺たちはこうしてまた他愛もないやりとりで盛り上がってしまう。
北海道旅行の話をしていたはずが、まったく別の方向に話が飛んでしまったけど——
それでも、こんなやりとりがあるからこそ、俺はまいとの時間が楽しくて仕方がないのかもしれない。
こんなやりとりを毎日繰り返しながら、ついに旅行当日がやってきた。
4月15日、午前9時。羽田国際空港。
まいが少しふくれっ面で俺を睨みながら言う。
「もう、謙のせいで危うく乗り遅れそうだったじゃん!」
「俺のせい? まいのメイクが長引いたせいだろぉ〜?」
「はぁ〜〜ぁ? 謙が『どの服がいい?』なんて聞くから、それに時間とられてメイクが遅くなったんじゃん! 前の日に準備しとけばよかったのに!」
「それは……まあ、そうだけど……」
痛いところを突かれて、俺は何も言えなくなる。
まいは腕を組みながら、さらに続ける。
「ほんと、困るとすぐ私に選ばせるんだから! ずるっちぃ〜よ、謙!」
完全に立場が逆転してしまった俺は、苦笑いしながら手を合わせた。
「ごめん、ごめん! でも、ほら、無事に乗れたんだから問題ないだろ?」
まいは大きくため息をつくと、俺を指差しながらキッパリと言った。
「もう! 謙、この旅行は全部5分前行動ね! わかった?」
「はい! がってん承知の助!」
ついふざけてしまい、思わずテレビで聞いたフレーズを口にすると、まいは呆れた顔で俺を見つめる。
「……謙、ばっかじゃなぁい?」
でも、口元は少し笑っている。
俺たちの旅は、こんなドタバタしたやりとりから始まった。
この先も、きっと賑やかで楽しい時間が待っているだろう。




