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187 「まいの笑顔と、消えたワーゲン」


部屋の扉を開けた瞬間——


「謙! 飛行機と宿、もう予約しちゃったよ〜! キャンセルきかないからねぇ〜!」


まいの元気な声が、俺を出迎えた。


「はいはい……でも、まい、声デカすぎるよぉ〜」


俺は苦笑いしながら扉を閉める。


「外まで聞こえてたぞ?」


「大丈夫だもん! ぜぇ〜んぜん平気だもんねぇ〜!」


まいはテンション爆上がりで、無邪気に笑っている。


本当に楽しみにしてくれてるんだな……。


そんな姿を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。


——けれど、ふと気になってベランダへと足を向ける。


「あれ? どうしたの?」


俺の行動を不思議そうに見つめるまいの声が後ろから聞こえたが、俺は軽く首を振るだけで、ベランダの外へ視線を向けた。


「いや……ちょっとね」


ゆっくりと手すりに寄りかかり、夜の街を見下ろす。


さっき見た白いワーゲン——あれがなんとなく頭に引っかかっていた。


まだ、あそこに停まっているだろうか?


何気ない仕草で下の通りを覗き込む。


しかし、もうあの車の姿はどこにもなかった。


「……気のせい、だったか」


胸の奥に残る微かな違和感。けれど、それ以上深く考えるのはやめた。


そのまま振り返ると、まいがこちらをじっと見ていた。


さっきまでの弾けるような笑顔は消え、どこか不安げな表情を浮かべている。


「……ごめんね、何でもないよ」


俺は慌てて微笑みながら言う。


「ただの思い違いだからさ」


そう伝えると、まいは少し安心したように、でもまだどこか気にしているような顔で


「……そっか」と呟いた。


俺はその表情を見て、心の中で苦笑する。


まいには隠し事はできないな……。


「よし! せっかく旅行の準備も整ったんだし、改めて計画立て直そうか!」


そう言って話を切り替えると、まいもいつもの明るい笑顔を取り戻し、「うん!」と元気よく頷いた。


「2人で作る北海道旅行計画」


まいと並んでソファーに腰を下ろし、買ってきた旅行ガイドを開いた。


まずは函館でどこを回るか、2人で相談することにする。


「やっぱり朝市は行きたいなぁ〜! 美味しそうなのがいっぱいあるだろうし」


まいはガイドブックのページをめくりながら、目を輝かせている。


「このお店、いい感じだねぇ!」

「こっちも美味しそう……」


次々と気になるお店を指差していくが、あまりにも魅力的な店が多すぎて決められない。


「これはもう、現地で見て決めるしかないな」


俺がそう提案すると、まいも「うん、それが一番だね!」と嬉しそうに頷いた。


食事のことが一段落すると、今度は観光地について話し合う。


「函館山の夜景、五稜郭、赤レンガ倉庫、八幡坂……」


ガイドブックを見れば見るほど、函館には見どころが多すぎる。


「謙、私ね、夜景は絶対に見たいの!」


まいが力強く言うので、俺は笑いながら「じゃあ、函館山は決定な」と返した。


「うん!」


「他はどうしようか?」


「テレビでよく見る、この坂も歩いてみたいなぁ」


まいが指差したのは、函館の象徴的な景色のひとつ、八幡坂だった。


「了解、じゃあ八幡坂もルートに入れておこう」


「函館はこのくらいでいいかな? あんまり予定を詰めすぎても、ゆっくりできなくなるし」


「うんうん、あとはその場の気分で決めようよ!」


2人とも納得したところで、今度は札幌の計画に移る。


「多分、函館で一泊して、チェックアウトしたら札幌までドライブって感じの流れでいいよな?」


「うん、ここでドライブね!」


まいは嬉しそうに頷くと、さらに目を輝かせながら「ねぇねぇ、途中、道の駅とか絶対寄るでしょ?」と聞いてきた。


「まぁ、トイレ休憩とかするし、絶対寄ることになるな」


「わーい! 焼きとうもろこしとか、じゃがバターとか売ってるかなぁ〜? 絶対美味しそう!」


まいはすでに食べ物のことで頭がいっぱいらしく、ワクワクしながら両手を胸の前で組んでいる。


その様子を見て、俺は思わず吹き出した。


「まい、さっきから食べ物のことばっかりじゃないか」


「だって、北海道だよ? 美味しいものいっぱいあるもん!」


そう言って無邪気に笑うまいを見て、俺もますます旅行が楽しみになってきた。


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