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177 【町中華.の爆盛り定食と、気になる噂】


店に入り、席に着いた橘と篤志は、壁に貼られたメニューをじっくりと見渡した。

手書きのメニューがずらりと並び、麺類から定食まで多種多様な料理名がぎっしりと並んでいる。


「橘さん、麺にします?それとも定食にします?」


篤志が尋ねると、橘は腕を組みながらメニューを眺める。


「うーん、どれも美味そうだし、こんなにあると悩むなぁ〜」


こういう時、橘はいつも店の定番になっていそうな日替わり定食を選ぶことにしている。

悩まずに済むし、店側もその日のおすすめを出してくれることが多いからだ。


「そうしたら……C定食で」


「じゃあ、自分はB定食でお願いします!」


すぐにウェイトレスが「はい、少々お待ちくださいね」と言いながら、水を持ってきた。


壁には「A定食・B定食・C定食」と3種類の定食が書かれているが、どれも内容の説明は一切ない。


篤志がふと気になり、橘に尋ねた。


「橘さん、なんでC選んだんですか?」


「ん? 特に深い意味はない。ただ、なんとなくだよ」


「自分は……真ん中だからですかね」


「なんだそれ?」


互いに苦笑しながら、他愛もない会話を続けつつ、定食が来るのを待つ。


しばらくすると、隣のテーブルからひそひそとした会話が聞こえてきた。

盗み聞きするつもりはなかったが、やけに声を潜めて話しているため、逆に気になってしまう。


「なんでうちの病院って、セクハラっぽいの多いのかなぁ……」


「ほんとだよね。女子社員のこと、甘く見てるよねぇ……」


「嫌がってるのに、しつこくて、必死に逃げてると、何かのトラブルがあると全部その人のせいにされてさぁ……結局、居づらくなって辞めるってパターン多くない?」


「わかる。訴えちゃえばいいのにね」


「でも、本当、噂が絶えないのって、やっぱり総務課だよね……」


「また前みたいに人事異動とかあったりしてさ……」


「絶対、上の人たち知ってるよね」


「みんな、自分の事しか考えてないよ。だから変に口出すと自分にも影響するから見てみぬふり」


「だから私達も適当に返事だけして気に掛けられない様にしてるのが1番だよね」


「ほんと!人事部が1番いいよ」


「うん……だから、絶対異動で総務課だけは行きたくないなぁ〜」


「私も絶対ヤダ!」


橘と篤志は、さりげなく視線を交わした。

どうやら、この店の客は病院関係者らしい。


そんな時、厨房から店員の元気な声が響く。


「はい、もやしラーメンと味噌ラーメン、それに餃子! 餃子は1つでいいんだよねぇ?」


「うん、美味しそ〜ぉ」


「じゃあ、しょうゆ皿を2つちょうだい。2人で分けるから」


「はーい、どうぞ! いつもありがとね。ゆっくりしてって」


「だって、おじさんのラーメン、どれ食べても美味しいから〜」


店の雰囲気は和やかで、常連客も多いようだ。

しかし、先ほどの会話が引っかかる。


「篤志、聞いたか?」


「はい……」


その時、厨房から元気な声が飛んできた。


「はい、お待たせしました! B定食とC定食!」


「B定は俺です」


「Cはこちらね。結構ボリュームあるから、2人とも頑張って食べてね!」


ウェイトレスがにこやかに笑いながら、おかわり無料だからどんどん食べてねと言い残し、去っていった。


橘と篤志は、目の前に置かれた皿を見て、思わず目を見合わせる。


「……これ、絶対やばいぞ」


「自分、完食できる自信ありません……」


2人は顔を見合わせたまま、吹き出しそうになった。


B定食は、唐揚げが山盛りで皿からはみ出しそうになっている。

隣には、これまた大盛りの野菜炒めがドンッと置かれ、さらに普通サイズのラーメンまでついていた。


C定食は、生姜焼きがどっさり乗った皿に、やはり溢れんばかりの野菜炒めが盛られている。

そして、こちらも普通サイズのラーメン付き。


さらにライスは、“普通” のはずが、どう見ても大盛りにしか見えない。


「……とりあえず、食べるか」


橘が苦笑しながら箸を取ると、篤志も笑いをこらえつつ、箸を手にした。


「はい!」


こうして、町中華の爆盛り定食との戦いが始まった。



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