174 【繋がった点と線】
机にうつぶしせながら、篤志はペンを指先でカタカタと机に鳴らしていた。
リズムはどんどん速くなり、ついには足まで揺らし始める。
「なんで今日は橘さん遅ぇんだよ……」
独り言を呟きながら、時計をちらりと見る。
決して遅刻しているわけじゃないのはわかっているが、どうしても待ちきれなかった。
昨夜、橘に言われたように事件の時間の流れを整理してみたところ、ある証言が次々と符合し、一つの線が見えてきたのだ。
この発見を早く報告したくて仕方がないのに、肝心の橘がまだ出社していない。
もどかしさが募り、イライラはピークに達していた。
そのとき――
「おはようさん」
扉が開き、橘が片手にコーヒーを2本持って入ってきた。
「橘さん、遅いっすよぉ!」
篤志は待ち構えていたかのように声を上げた。
「何がだよ。遅刻してねぇだろ?」
「いや、そうですけど……でも遅いっす!」
「朝から機嫌悪いな。どうした?」
橘は軽く笑いながらコーヒーを一本、篤志の机の上に置いた。
しかし、篤志はそれどころではない。
逸る気持ちを抑えきれず、勢いよく椅子から立ち上がると、待ちわびた報告を始めた。
「聞いてください! 昨日、橘さんに言われた通り資料を見直してたら、被害者の3人が広島で会ってたんですよ!それも3月初めに!」
「広島?」
「3月に全国の病院の発表会みたいなのがあったんです。で、例の総合グループもその発表会に参加してました。そこに、被害者の朝比奈さん、桜井さん、田中さんも総務課の代表として出席してたんです!」
「……ほう」
橘の表情が一気に引き締まる。
「つまり、朝比奈さんは何かを知っていて、そのために2人の協力を得た可能性がある。
で、その後、3人は次々と事故を装って殺された――。
この線、あり得ると思いませんか?」
「……篤志」
橘は一拍置き、ニヤリと笑った。
「お前、すげぇな。よくそこに気づいたな」
「でしょ!? やっぱり俺、冴えてるんじゃないですか?このヤマ思っているより単純なのかもしれませんね」
篤志は得意げに胸を張る。
しかし、次の瞬間――
「バァーカ!」
橘の手が篤志の頭を軽くはたいた。
「調子に乗るな。昨日は『この事件は複雑すぎて難航しそう』とか言ってたの、誰だっけ?」
「……すんません」
篤志はバツが悪そうに笑いながら頭をかいた。
「でも、確かにこの線は濃厚だな」
橘はコーヒーをひと口飲み、真剣な表情で続ける。
「ただの偶然とは思えねぇ。被害者たちが何を知っていたのか、総合グループが何を隠しているのか――。この線をもっと肉付けして、確実な証拠にしていくぞ」
「了解です!」
篤志は気合十分にうなずいた。
こうして、2人は意気揚々とオフィスを飛び出していく。
また、忙しくも刺激的な一日が始まろうとしていた――。




