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173 「昨日はありがとう…と、変わらない友」


朝、目が覚めて携帯を手に取り開いてみると謙からのLINEが届いていた。

開いてみると



【純一、昨日は本当にありがとう。

まいもすっかり落ち着いて、純一のことを大絶賛していたよ。

俺自身も、純一がいてくれたおかげで安心することができた。本当に感謝している。


それから、まいから聞いた「しばらく一人で出歩かない方がいい」という件について、自分も十分気をつけるようにするよ。


それと、もし都合が合えば、今度二人で会えないか?

事故のことについて、少し話を聞かせてもらえたらと思ってる。

何も思い出せない状態だけど、話をすることで何か記憶の糸口が見つかるかもしれないし、少しでも純一の力になれればとも思っている。

もちろん、俺自身も何が起きたのかを知りたいという気持ちもある。


都合の良いタイミングを教えてくれ。

また連絡を待ってるよ    謙 】






スマホの画面に映る謙からのメッセージを読み終えた瞬間、自分の顔がふっとほころんでいるのがわかった。


「謙、お前、やっぱり変わんねぇなぁ……」


思わず呟きながら、懐かしさと嬉しさが込み上げてくる。

どれだけ時間が経っても、記憶喪失でもあいつの根っこの部分は昔のままだ。

まっすぐで、いつも周りを気にかけてる。

そんな謙の言葉が、なんだか心に染みて、朝からいい気分にさせてくれた。


「よっしゃ、今日も気合い入れていくか!」


そう言って勢いよく布団を跳ね除けると、ベッドから立ち上がり、いつものルーティンで支度を始めた。


朝食は普段、一人のときは途中のコンビニでサンドイッチと牛乳、それとコーヒーを買い、車の中で済ませるのが定番になっている。

けれど、香と一緒のときは違う。

早めに起きて、香が作ってくれる朝食をゆっくり食べてから出勤するのが決まりだ。

今日はコンビニパターン。


着替えを済ませ、鍵を手に取ると、ふと謙との約束のことが頭に浮かんだ。

「いつ会うかな……昨日も会ったけど、ちゃんと落ち着いて話したいよな」

事故のこともそうだし、記憶の手がかりが見つかるかもしれない。

そして、なにより、”親友”として向き合って、じっくり話したかった。


車のエンジンをかけながら、さらにもう一つ思い出す。


「そうだ、まいちゃんとの約束……香も楽しみにしてたっけ。日程、ちゃんと決めねぇとな」


最近、仕事に行く途中プライベートな予定を考えることなんてほとんどなかった。

でも、こうして謙のメールを読んだだけで、まいちゃんや香のことを考えられると、自分の生活に少しだけ彩りが戻ってきた気がする。

謙のおかげで、俺も変われるのかもしれない……


そう思うと、自然と口元が緩んでくる。


「ったく……昔から世話焼きなのは相変わらずだな」


心の中でそう呟きながら、橘純一はアクセルを踏み込み、今日という一日を走り出した。



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