170 【師弟の会話】
2人は病院の玄関を出て、当たり前のようにそれぞれの席に乗り込んだ。
橘は助手席、篤志は運転席…
この並びはいつの間にか自然なものになっていた。
篤志がエンジンをかけると、橘は腕を組みながら問いかけた。
「さっきのエレベーターでの話、自分なりに考えて、何か見えてきたか?」
篤志はハンドルを握りながら、少し考え込むように口を開く。
「橘さんに言われて、今も考えてるんですけど……なんとなく事件の流れは繋がるんです。でも、なんでこうなったのか、そこがまだ分からないんですよねぇ……」
橘は呆れたように小さくため息をついた。
「お前、やっぱりバカだなぁ」
「なんでですかぁ~!」
篤志は不満げに橘を細目で睨みながら、少し反発するような口調で言い返した。
「お前な……」
橘は資料を指でトントンと叩きながら、さとすように続けた。
「事件の流れを考えるだけじゃなくて、そこに証拠や証言――つまり、資料を当てはめてみろ。そうすれば、おのずと理由が見えてくる。バラバラに考えるから分からなくなるんだ。流れに沿って整理すれば、短時間で答えが出るし、徹夜なんてしなくて済むぞ」
篤志は一瞬黙った後、「確かに……」と呟いた。
「分かったなら、署に戻ってさっさとまとめるぞ」
橘は笑いながら助手席のシートを少し倒した。
篤志も「了解です!」と元気よく返事をし、ギアを入れる。
エンジン音が響き、車は豊島総合病院の駐車場を滑るように出て行った。
橘は窓の外を見ながら、ふと口角を上げる。
(篤志も、少しずつ刑事らしくなってきたな……)
助手席から聞こえてくる橘の微かな笑い声に、篤志は「なんですか?」と怪訝そうに尋ねたが、橘は何も答えず、ただ前を見つめていた。




