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165 【父の最期、封じられた記憶】

衝撃の展開に……


「ただいまぁ〜」

まいは玄関の扉を開け、明るい声で呼びかけた。

計画通りに……


だが、家の中は静まり返っている。


(あれぇ〜?)

いつもなら、母が台所から顔を出して「おかえり」と言ってくれるはずなのに。

まいは少し首をかしげ、もう一度声を張り上げた。


「ただいまぁ〜!」


それでも、返事はなかった。

不安が胸をよぎる。

だが、まいは気を取り直し、靴を脱いで家の中に上がった。


(買い物にでも行ってるのかな?)

そう自分に言い聞かせ、リビングに向かおうとしたその時——。


視界の先に、廊下に座り込んでいる母の姿が見えた。

背中を丸め、力なく座り込んでいる。

まいは少し驚いたが


「なんだ、お母さん、いるんなら返事ぐらいしてよぉ〜」


だが、母は動かない。

まるで魂を抜かれたかのように、リビングの方を茫然と見つめていた。

その目には光がなく、口元は半開きのまま固まっている。


(……何か、おかしい)


まいの胸に、冷たい不安が広がった。

心臓が早鐘のように鳴り始める。

手のひらには嫌な汗が滲み、全身が震えた。


「お母さん……どうしたの?」


声が震える。

まいは足がすくみそうになるのを必死に抑え、母の元へ駆け寄った。

しかし、母は反応しない。

まるで何も聞こえていないかのように、視線はリビングの一点に固定されたままだ。


(怖い……なに、これ……)


胸が締め付けられるように苦しくなり、まいは息を詰まらせた。

手を伸ばし、母の肩に触れようとした瞬間——。


目の端に、リビングの中が映った。


まいはゆっくりと首を動かし、母と同じ方向に顔を向けた。

視界に飛び込んできたのは——。


タンスに紐をかけ、首を吊った父の姿だった。


「……え?」


時間が止まった。

まいの脳が現実を拒絶する。

目の前の光景が理解できない。


(これは……何? どうして……お父さんが……?)


足が震え、崩れそうになるのを必死に耐えた。

目を見開き、呼吸も忘れたまま、その場に立ち尽くした。


——お父さんが、宙に浮いている。

無表情のまま、目を開けたまま、力なく垂れ下がった両手。

足元には倒れた椅子。


「いやぁぁぁあああああっ!!」

「おねいちゃーーん」


喉が裂けるような悲鳴を上げ、まいは後ろに倒れ込みそうになった。

その瞬間、背後から足音が駆け寄ってきた。


「まいっ!」

「お姉ちゃんっ!!」


お姉ちゃんが、驚愕の表情でリビングに飛び込んできた。

そして、まいと同じ光景を目にして——固まった。


「お、お父さんっ!? な、なんで……!?」


声が震えている。

まいはパニックに陥りながらも、お姉ちゃんの袖を掴んだ。


「お、お父さん……お父さんが……死んでる……」


「そんな……そんなはず、ない……!」


まいは何もできず、ただ震え、泣き叫ぶだけだった。

「まい!!なにやってんのーー!!手伝って!!早く!!」


「お父さん!! やだぁー!! 起きて!! 早く起きてぇー!!」


お姉ちゃんと一緒に、必死に父の身体を下ろして揺さぶった。

冷たくなった父の顔に触れると、まいの指先が凍るように冷たくなった。


「やだぁー!! お父さん!! 返事してぇー!!」


どれだけ叫んでも、父は微動だにしなかった。

まいは現実を受け入れることができなかった。

お姉ちゃんも同じだった。


涙で視界が滲み、声がかれるまで叫び続けた。

家の中には、まいとお姉ちゃんの叫び声がむなしく響いていた——。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



詳しくはわからないのですが、お姉ちゃんが会社で不正を働いたと電話があったらしいのです。それで父は自分を責めて責任を取ったみたいです


「お姉ちゃんは言ってました……『私は何も知らないし、やってない』って。


警察にも何回も相談に行っていましたが、自殺となっていたので取り扱ってもらえなかったみたいです

「……お姉ちゃんが、あの日以来変わってしまったんです」

私ともほとんど口をきかなくなって、仕事も毎晩帰ってくるのが遅くなり、帰ってくるとすぐ部屋にこもってしまって、でも何日がしてお姉ちゃんが言ってたんです。

まい、もうすぐだよって


多分、お姉ちゃん、お父さんの為にも、自分のぬれぎぬを晴らすために毎晩調べてたんだと思います。

まいの声は震えていた……


まいちゃん、その時麗子さんから何か聞いていた?


何も…


多分そこがこの事件の核心だと橘は感じとった。


それからすぐ、お姉ちゃん事故で亡くなったんです。


まいはそれから、父と姉を同時に亡くして耐えられなくなった事、母は精神を病んでしまい今もまだ施設に入院しているとも伝えた。


橘は言葉を失っていた。

まいの記憶があまりにも鮮明で、あまりにも悲痛だったからだ。


父の死という現実を受け止められるはずがなかった短い時間の中でしかもすぐにお姉さんまでも…


まいの声が途切れた。

橘は唇を噛み締め、拳を強く握った。


(なんて、残酷な……)


橘は深く頭を下げ、声を震わせて言った。

「まいちゃん……辛い記憶を思い出させて、本当にごめん。

そして、朝比奈家の家族をバラバラにしてしまったこと、警察の初動捜査の誤りを、心からお詫びします」


「大変申し訳ありませんでした!」


まいは驚いたように目を見開いた。

橘の頭は深く下げ、声は苦しげに震えていた。


橘は頭を上げ


「まいちゃん、俺がもう一度、全部調べる。

まいちゃんが背負ったこの痛みを、絶対に無駄にはしない」


まいの目から、溢れ出す涙が止まらなかった。

橘に聞いてもらえたこと、橘が本気で向き合ってくれたことが、まいの心を救ってくれた。


(ありがとう……橘さん……)


まいは、橘に向かって深く頭を下げた。

泣きながら、震える声で呟いた。


「ありがとうございます……」


まいは橘に話した事を後悔はしていなかった。


むしろ橘に話せたことが嬉しかった…。


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