表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/361

161 【不穏な訪問】


刑事一人が名刺を差し出し、丁寧に頭を下げる。

「私たち、今荒川で起きた殺人事件について調べていまして…」


その言葉を聞いた瞬間、まいの体が強ばった。


殺人事件。

荒川。

昨日の嫌な記憶が脳裏をよぎる。


「それで、少しお話をお聞きしたくて……」

警察官の視線はまっすぐで、逃げ場を与えてくれない。

「ここでは周りの目もありますし、これから署の方にいらして頂くことは可能ですか?」


まいは、突然の警察の呼び出しに動揺し、言葉を失った。

脈拍が速くなり、指先が冷たくなるのを感じる。

なぜ、私が……?

不安と混乱が胸を締め付ける。


背後から謙が一歩前に出て、警察官に問いかけた。


「任意ですよね? 行かなくても良いんですよね?」


謙の声は冷静でありながら、まいを守ろうとする強さが滲んでいた。


警察官は一瞬だけ視線を交わし、曖昧な笑みを浮かべた。


「まぁ、任意ですので……」


だが、その表情はどこか強制力を感じさせるものだった。


まいは、はっと息を飲んだ。

きっと、お姉ちゃんのことだ。

あの事故のことを調べているに違いない。

そう直感すると、胸がぎゅっと締めつけられた。

過去の記憶が甦り、目の前が霞むような感覚に襲われる。


だが、逃げるわけにはいかない。

ここで怯えてしまえば、疑いが深まるだけだ。

まいは小さく深呼吸をして、顔を上げた。


「謙、私行ってくる。大丈夫だから」


できるだけ明るく微笑みながら、謙を見上げた。

「だって、私は何も悪いことしてないし、ずっと謙と一緒にいたんだから」

その言葉には、自分自身に言い聞かせるような力が込められていた。


俺は眉をひそめ、納得がいかない様子だったが、まいの決意の目を見て黙った。

彼女の中に揺るぎない意志を感じ取ったのだろう。


まいは警察官に向き直り、静かに頭を下げた。


「わかりました。今、支度しますので少しお待ちください」


部屋に戻ると、まいは緊張しながらも素早く着替えを始めた。

鏡に映る自分の顔は、緊張と不安に満ちていたが、同時に強い決意が宿っていた。

逃げない。

何があっても……


その間、謙は警察官に署の場所や手続きについて尋ね、後から向かって待機する許可を得ていた。

まいを一人で行かせるわけにはいかない。

どんなことがあっても、彼女を守るつもりだった。


まいは支度を終えて玄関に戻ってきた。


「謙、これ鍵。預かってて」


震えないように気丈に振る舞いながら、鍵を謙に渡す。


「行ってくるね。大丈夫だから」


笑顔を作ったが、その目にはかすかな不安が浮かんでいた。


謙は強くうなずき、彼女の手を優しく握った。


「無理するなよ。何かあったらすぐに連絡してくれ」


「うん、ありがとう」


まいはその言葉に少しだけ勇気をもらい、警察官たちと共に部屋を後にした。


玄関の扉が静かに閉まると、部屋の中は急に静まり返った。

さっきまでの穏やかな空気は、もうどこにも残っていない。

謙は一人、しばらく扉を見つめていた。

彼女に何が起こるのか、不安が胸を締め付ける。


「……俺も行くからな」


そうつぶやくと、急いで自分の家に車を取りに戻ることにした。

まいを一人にはさせない。

彼女を守るために、自分ができることを全てやる。

そう強く心に誓い、部屋を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ