160 【動き出す歯車】

謙とまいは、朝の柔らかな日差しが差し込むダイニングで朝食を楽しんでいた。

テーブルには焼きたてのトーストと、香り豊かなコーヒーが並び、二人の笑い声が部屋を包んでいた。

一晩前の重い空気は、もうどこにも感じられない。

まいは笑顔を見せ、謙も自然と頬が緩む。

まるでいつもの穏やかな日常が戻ってきたかのようだった。

朝食もすみ、まいが笑顔で食器を片付け、シンクで水を流し始めたその時だった。

インターホンが鳴った。

まいは食器を片付ける手を止め、軽く手を拭くと、モニターを覗き込んだ。

画面には見知らぬスーツ姿の男性が二人、真剣な表情を浮かべて立っている。

「誰だろう？」

見るからに堅苦しい雰囲気で、無表情のままカメラを見つめていた。

「……どなたですか？」

戸惑いながら尋ねると、画面越しに男

手帳をモニター越しに映して

「警察です朝比奈舞子さんでよろしいですか？」

玄関先に立つのは二人の刑事はだった

硬い表情を崩さずにまいを見つめていた。

スーツに身を包み、どこか冷たい印象を与えるその姿に、まいの胸がざわついた。

「はい……」

緊張で声がわずかに震えた。

画面越しに、男性の一人が丁寧に頭を下げた。

まいは一瞬ドキッとした

思わず謙の方を振り返ると、彼も眉をひそめてモニターを覗き込む。

「はい、そうです」

少し緊張が混じった声で答えると、その男性は淡々と続けた。

「恐れ入りますが、少しお話をお聞きしたいのですが」

まいは、無意識に息を飲んだ。

心臓が早鐘を打ち始める。

何の用件だろうか。

まさか……。

「はい……では開けますので、どうぞ」

冷静を装いながら、オートロックの解除ボタンを押した。

「警察だって……なんだろう？」

謙の方を振り返った

まいの顔には明らかに不安の色が浮かんでいる。

「わからないな……でも、話だけでも聞かないと」

謙はまいを落ち着かせるように、優しく肩に手を置いた。

だが、その手にもわずかな緊張が伝わってくる。

「うん……」

まいはかすかにうなずいたが、心臓の鼓動が早まっているのを感じていた。

部屋の中は、さっきまでの和やかさが嘘のように静まり返っていた。

コーヒーの香りが妙に浮いて感じられ、時計の秒針がやけに大きく響く。

しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。

「ピンポーン」

その音が、まいの胸に重くのしかかった。

彼女は一瞬立ちすくんだが、意を決して玄関へ向かう。

謙が後ろから心配そうに見守っていた。

ドアノブに手をかける

自分の鼓動が速くなるのを感じながら、ゆっくりとドアを開けた。

冷静な表情を浮かべる二人の姿に、まいは無意識に背筋を伸ばした。

何かが始まろうとしている。

二人の生活に影を落とすように……

見えない歯車が確実に少しずつ動き出していた。