159 【繋がる点と見えない線】
「橘さん、今回の事故の件ですが……」
篤志は資料を見つめながら口を開いた。
「最初の事故は朝比奈麗子さん、それから3ヶ月後に桜井かおるさん、さらにその3ヶ月後には田中隆信さん。すべて3ヶ月間隔で起きてるんです」
橘は眉をひそめた。
「3ヶ月ごと、か……偶然にしては出来すぎてるな」
「はい。それだけじゃありません」
篤志は次の資料を指差した。
「その後、半年後に高木謙太郎さんが記憶喪失になる事故が起きています。でも、それまでの3件とは少し異なるパターンなんです」
橘は腕を組み、視線を鋭くした。
「確かに不自然だな。3ヶ月ごとの連鎖が突然半年後に変わる……まるで何かを隠すためのようだ」
「さらに、最初の1件目の死亡事故の時、課長だったのが伊藤なんです。始まりは伊藤からなんですよ。その後、3件目の交通事故が伊藤が課長の時…それも移動した場所でです」
篤志の言葉に、橘は目を細めた。
「伊藤と石井は同級生だったよな?」
「はい。そして、枝と山口は先輩後輩の関係です」
「2件目の交通事故は桜井さんが被害者でその時の課長が石井かぁ」
橘は頭の中で相関図を組み立てた。
「ということは、枝を除いた3人は課長同士で、必然的に顔を合わせていたはずだ」
橘の視線が鋭さを増していく。
「その3人の上司が枝……」
篤志はうなずいた。
「そうなんです。そして、前に僕が見かけたトイレでの電話の件。山口が誰かに焦った様子で話していました。相手はおそらく枝だと思うんですが……」
「間違いないだろうな。ただ、現時点では証拠が何一つない」
橘は深いため息をついた。
「俺たちの推測はきっと正しい。だが、証拠がなければただの憶測にすぎない」
部屋の中に重苦しい沈黙が訪れた。
橘は立ち上がり、窓の外を見つめる。
曇った空が、そのまま事件の闇を象徴しているように感じられた。
「それにしても……」
橘は低い声で呟いた。
「なぜ、謙がこの件に絡んだのか」
篤志はハッとしたように顔を上げた。
「確かに、他の3件とは異質です。まるで高木さんだけが狙われたように見えます」
「そこがこの事件の肝かもしれないな」
橘の目が鋭く光る。
「もし、謙が狙われた理由が解明できれば、本筋に辿り着けるかもしれない」
だが、それは同時に危険な領域に踏み込むことを意味していた。
橘は覚悟を決めた表情で篤志を見つめる。
「本筋の事件を暴かない限り、土台だけでは足りない。中途半端な証拠では、相手に付け入る隙を与えるだけだ」
篤志は橘の決意に触発されるように、拳を強く握りしめた。
「はい。俺も覚悟を決めます」
橘は微かに笑い、篤志の肩を叩いた。
「行くぞ。今度は確実に仕留めるためにな」
二人の目には、決意の炎が宿っていた。
闇に包まれた真実を暴くために、彼らは再び立ち上がった。




