158 【明かされた繋がり】
篤志は、昨夜一睡もせずに資料をまとめ上げた。
机の上には、山積みになったファイルやメモが散らばっている。
それらを前に、篤志は重いまぶたをこすりながら悔しさを噛み締めていた。
「まだ、全部は掴めてない……」
情報の断片は揃い始めているが、核心に迫るには程遠い。
焦りと無力感が胸を締め付けた。
だが、その中で一つだけ確信に至ったことがある。
1年前の3月、突然の人事異動があった。
豊島総合病院の伊藤が、監督不行き届きで異動になったという噂があったが、実際はそれだけではなかった。
総合グループの課長全員が同時に異動していたのだ。
さらに調べを進めると、板橋総合の伊藤と高島総合の石井が学生時代の同級生であることも分かった。
「この異動には、何か裏がある……」
資料を何度も見返すうちに、バラバラだった点と点が一本の線で繋がり始めた。
それでも、肝心な部分はまだ霧の中だ。
あと一歩が見えない。
もどかしさが篤志を苛立たせ、拳を強く握りしめた。
「まだ、何かがあるはずだ……」
そう思いながらも、力尽きたように机に伏せた。
その時、ドアが開き、橘が入ってきた。
「篤志、おはよう」
明るい声が部屋に響く。
「おはようございます……」
篤志は顔を上げたが、疲労の色は隠せなかった。
橘は篤志の顔を見るなり、驚いたように目を見開いた。
「お前、大丈夫か?目の下、クマがすごいぞ!まるでパンダみたいだな」
冗談を交えながらも、心配そうな視線を向ける。
「すみません……でも、少しだけ繋がりが見えてきたんです」
篤志は机の上の資料をまとめて橘に差し出した。
「これを見てください。まだ不十分ですが……」
橘は資料を受け取り、ページをめくりながら目を通していく。
その表情が徐々に驚きに変わっていった。
「お前、これ全部一人でまとめたのか?」
橘は感心した様子で篤志を見つめた。
「寝ずにやったんだな……すごいじゃないか」
篤志は恥ずかしそうに頭をかいた。
「はい、でもまだ不完全です……」
「いや、これだけの繋がりを見つけたのは大したもんだ」
橘は資料を手に、力強くうなずいた。
「これで確信が持てた。次の一手が打てる」
その言葉に、篤志の胸に微かな希望が灯った。
悔しさや焦りが、一歩前進した実感に変わっていく。
「俺は、間違ってなかったんだ……」
橘は優しく微笑んで篤志の肩を叩いた。
「よくやった。次は一緒に詰めていこう。お前一人に背負わせたりはしないからな」
その言葉に、篤志は胸が熱くなった。
「ありがとうございます……」
疲労は限界だったが、篤志の目には力強い光が戻っていた。




