157 「朝の微笑みに隠された想い」
隣を見ると、ベットにはもうまいはいなかった。
朝、目覚めると、キッチンから小さな物音が聞こえてきた。
まいがいつものように朝食の準備をしているようだ。
昨夜、まいはしばらく窓辺で夜景を眺めていた。
その背中には、言葉にできない想いが滲んでいたけれど、彼女は一言も漏らさなかった。
しばらくして、まいは静かにベッドに戻ってきた。
何事もなかったかのように、俺の腕の中にもぐりこんでくる。
その瞬間、俺は寝たふりをやめて、目を覚ましたふりをした。
「どうした?」
そう問いかけると、まいは一瞬だけ戸惑ったが、でもすぐに柔らかく微笑んだ。
「内緒。」
その一言に込められた気持ちを、俺は無理に聞き出そうとはしなかった。
まいが言葉にできない想いを抱えていることに気づいていたけれど、今はただ、彼女の心が落ち着くまでそっと寄り添いたかった。
まいは俺にキスをして、そのまま腕の中で静かに眠りについた。
その穏やかな寝顔を見ながら、俺も彼女を優しく抱きしめた。
ベッドルームを出ると、まいはキッチンで朝食の準備をしていた。
昨夜の出来事が嘘のように、いつもの明るい表情で、まいは振り返る。
「おはよう。」
「謙、おはよう。」
まいはいつものように微笑んだ。
でも、その笑顔の奥に、昨夜の涙が隠れていることを、知っている。
気づかないふりをして、笑顔を返した。
まいが言葉にしない限り、何も聞かない。
ただ、彼女の隣で支え続けると決めたから。
二人の気持ちが、朝の静かな時間にそっと溶け込んでいく。




