156 【 思いやる気持ち】
俺はまいにゆっくりと近づき、そっと腰に手を回して寄り添った。
まいはためらうことなく、首を俺の肩に預け、体を預けてくる。
その瞬間、彼女の柔らかな体温が胸に伝わり、自然と息が詰まった。
「ごめんなさい……。あんなに楽しかったのに、急にこんな感じになっちゃって……」
まいの声はかすかに震えていたが、気丈に微笑もうとしているのがわかった。
俺は彼女の髪に顔を埋め、優しく囁く。
「気にするなよ…。俺の方こそ、何も知らなくて、何も力になれなくて……」
まいはゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「そんなことないよ。謙はいつも私に力をくれてる。謙がいるから、こうして今まで耐えてこれたんだよ……」
その言葉を聞いた瞬間、抑えきれない感情が胸にあふれた。
気がつくと、俺はまいの唇にそっとキスをしていた。
まいは自然に瞼を閉じ、静かに唇を受け入れてくれた。
そんなまいを俺はさらに強く抱きしめた。
気づけば、俺はまいを抱え上げ、ベッドルームへと運んでいた。
まいは何も言わず、ただ俺に身を任せている。
その表情は恥じらいを浮かべながらも、どこか期待に満ちていた。
ゆっくりとベッドにまいを下ろす。
彼女の髪がシーツの上に広がり、白い頬がほんのり赤く染まっている。
まいの瞳が潤み、唇が何かを語りかけているようだった。
彼女の目をじっと見つめ、ゆっくりと顔を近づけた。
まいは目を閉じ、かすかに肩を震わせている。
唇を指先で触れると、まいは優しく俺の頭に手を回し、さらに深く俺に応えてくれた。
甘く、切ない時間が静かに流れた。
言葉なんてもう必要なかった。
互いの温もりだけが、すべてを語っていた。
俺はまいの頬を優しく撫で、潤んだ瞳をじっと見つめた。
「まい…」
声が低く響くと、まいの身体が小さく震えた。返事の代わりに、まいは瞳を閉じ、唇を少しだけ開いた。
その仕草に引き寄せられるように、まいの唇に唇を重ねた…… 柔らかく、そして甘い感触が全身に広がっていく。
唇が重なるたびに、まいの息遣いが少しずつ荒くなっていくのを感じた。
謙の指先がまいの髪をすくい、首筋をなぞる。まいの肌がわずかに震え、かすかに声が漏れた。
耳元で囁くように、謙は問いかける。
「まい…大丈夫?」
まいは瞳を開け、熱を帯びた眼差しで謙を見つめた。
「ううん……優しくしてね……」
その言葉に応えるように、謙はさらに深く唇を重ねた。
互いの息遣いが混じり合い、心の距離が一気に縮まっていく。
俺の手がまいの胸に触れ、ゆっくりと滑らせながら体温を確かめるように優しく撫ぜた。
まいもそれに応えるように、指先で謙の背中を引き寄せた。
触れ合う肌の温もりが、二人の想いをさらに強く結びつけていく。
謙はまいの髪にキスを落としながら….
彼女は優しく俺を導いた.…
見つめ合う瞳に言葉はなくても、互いの想いは確かに伝わっていた。
「まい…愛してる」
その言葉に、まいは頷き、微笑んだ。
二人は再び唇を重ね、互いの体温を感じ合いながら、静かに、そして激しく深く結ばれていった。
夜の静けさの中で、二人の鼓動だけが響いていた。
二人寄り添いながら眠っていると、まいが静かにベッドから降りた。
謙はすぐに気がついたが、まいに気づかれないように、そのまま寝たふりをしていた。
まいは裸のまま窓辺に立ち、遠くの夜景をじっと見つめている。
月明かりが彼女の輪郭を柔らかく照らし、その背中がかすかに震えているように見えた。
その姿は妖艶でありながら、どこか哀しさを感じさせる。
何を思っているのだろう。
あの時の涙を、まいはまだ抱えているのだろう。
謙は胸が締めつけられるような感覚に襲われた。
声をかけたい。抱きしめて、不安を全部消してあげたい。
でも、今は違う気がした。
まいはきっと、一人で整理したい想いがあるのだろう。
自分と向き合う時間が必要なのかもしれない。
まいの背中は、強がっているようで、しかし今にも崩れそうなほどに脆く見えた。
それでも、彼女は震える肩を必死に押さえ、静かに夜景を見つめ続けている。
謙はその姿を見て、切なさと愛しさがこみ上げてきた。
そっとしておこう。今はまいが必要としている時間を、邪魔したくない。
自分にできるのは、ただ隣にいること。
彼女が戻ってきた時、温かく受け止めることだと。
謙は寝たふりを続けながら、まいの背中に心の中で優しく寄り添った。
そして、まいが自分の想いを整理できるまで、ずっとそばにいると誓った。




