152 「無邪気な笑顔と大人びた仕草」
「なんか、またいっぱい買っちゃったね。」
まいが笑いながら、両手に抱えたショッピングバッグを見せてくる。
「でもさ、謙、本当に洋服選ぶのダメなんだねぇ〜」
茶化すように笑うまいに、俺は肩をすくめた。
「仕方ないさぁ。あんまり興味ないし、仕事はスーツで決まりだし、家ではジャージで十分だろ?」
それに、と付け加えて、「俺、前からこんな感じだった?」と尋ねる。
まいは、うーんと悩むふりをしながら、いたずらっぽく微笑んだ。
「どうだったけかなぁ〜。それなりにいけてた気がするんだけどなぁ。前は……」
少し考えるように視線を遠くに向けたかと思うと、不安そうな顔をして、
「なんか変わっちゃったのかなぁ〜」とつぶやく。
「マジか? 俺、そんなにダサくなったか? 前と全然違う?」
思わず焦って聞くと、まいは俺の顔を覗き込み、ニヤニヤと笑った。
「嘘ぉ〜! 謙、今、ちょっと焦った?」
その表情はまるで、いたずらが成功した子供のように楽しげだ。
「お前、ひどいなぁ〜。記憶喪失の俺をそんなにもて遊んで?」
俺が憤慨すると、まいはケタケタ笑いながら、
「だって、謙が引きつった顔、可愛いんだもん。」
自分に呆れた、まいに振り回されている自分に気づいて、思わず苦笑いがこぼれる。
「もういいよ。覚悟しなさい、まい。俺は俺だ。変えたいなら、力ずくで変えてみなさい!」
半ば意地になって開き直ると、まいは冷静に、しかし優しい目で言った。
「ばぁーか!そんな謙が好きなの。」
その一言に、心が動揺した。言葉が出ない俺を見て、まいは得意げに微笑んだ。
やっぱり、まいは一枚上手だ。
駅の方まで戻り、通り過ぎてすぐ左に曲がったところで、まいが立ち止まった。
「着いたよ、謙。ここが私のマンションだよ。」
見上げると、清潔感のある綺麗な外観が目に入った。駅近で、治安も良さそうだ。
「女の子には最良物件ってやつだな……」思わず口に出すと、まいは満足げに頷いた。
「ここの4階だよ。」
エレベーターを待つ間、まいはポストをチェックして、郵便物を無造作にショッピングバッグに詰め込んだ。
扉が開いて2人で乗り込むと、まいがいきなり俺に抱きついてきた。
「今日、楽しかったね、謙……」
上目遣いで甘えるように微笑むまいに、心臓が跳ねる。
その可愛らしい表情に、俺は一瞬言葉を失ったが、まいはエレベーターが止まると、何事もなかったかのように、
「謙、こっちだよ!」と元気よく先に歩き出した。
俺は呆気に取られながら、その小さな背中を追いかけた。
まいの無邪気な笑顔と、大人びた仕草。どちらも愛おしくて、目が離せない――。




