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150 「追うべき真相」


「篤志、行くぞ!」

橘の低く力強い声に、篤志はハッと我に返った。

「あ、はい!」

一瞬の戸惑いを振り払うように、篤志は橘の後を追った。


2人は足早に刑事課へと向かった。

この事件を担当している知り合いの刑事、田辺に話を聞くためだ。


廊下を進むと、捜査課の部屋が見えてきた。

室内は緊迫した雰囲気に包まれ、刑事たちが忙しなく動き回っている。

そんな中、デスクに向かい、書類に目を通している田辺を見つけた。


橘は軽く手を挙げ、無言で合図を送った。

それに気づいた田辺は、顔を上げて目を細めた。

田辺は廊下まで出てきて


「なんだ、橘か。今、めちゃくちゃ忙しいんだけどな。」


橘は田辺の前に立ち、真剣な眼差しを向けた。

「今朝の身元不明の遺体、間違いなく井上なのか?」


その問いに、田辺の表情が一瞬険しくなった。

「なんだ、なんか知ってるのか?」


橘は一瞬視線を落とし、言葉を選ぶように口を開いた。

「ああ、だが……今はまだ言えない。もう少し整理がついたら必ず伝える。だから、今わかってることを教えてくれ。」


田辺は溜息をつき、眉間に皺を寄せた。

「まったく、お前ってやつは……仕方ねぇなぁ。」

廊下の長椅子に軽く腰掛け、腕を組んだ。


「今、分かってることだけだぞ。遺体発見当初、身元を示すものは何一つ所持してなかった。だから、最初はまったくの身元不明者だったんだ。」

「じゃあ、なんで井上ってわかったんだ?」

橘が食い下がる。


「指紋だよ。警察のデータベースで照合した結果、井上ひさしだって判明した。こいつ、去年死亡事故を起こしてる。その時に指紋が記録されてたんだ。それが今回の身元判明の決め手になった。」


「死亡事故ねぇ……」

篤志が思わず呟くと、田辺は頷いた。

「ああ、捜査は多分そこから動くことになるだろうな。」


橘は真剣な眼差しで田辺を見つめ、深く頷いた。

「田辺、ありがとう。助かった。もし新しい情報を掴んだら、必ず知らせてくれ。今度、飲みに連れてくからさ。」


「はっ、口だけじゃなければな。」

田辺は笑みを浮かべ、軽く手で酒を飲むまねをした。


「篤志、行くぞ。」

「はい!」

橘はかかとを返し、廊下へと走り出した。篤志もすぐにその後を追う。


「おい!待てよ、橘!お前の知ってる情報は?おい、橘!」

田辺が声をかけるが、橘は振り返らなかった。


「全く……相変わらずせっかちなんだから。」

田辺は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


2人の背中が廊下の先へと消えていく。

その姿を見送りながら、田辺は小さく呟いた。

「今度の飲み、絶対におごらせてやるからな、橘。」


刑事課の喧騒が戻る中、田辺はデスクに戻り、再び資料に目を落とした。

だが、橘の表情に浮かんでいた焦りの色が、妙に頭から離れなかった。



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